第1章 幼少期〜9
「重虎」
「…なんでしょう、父上」
齢まだ10にも満たない幼子が日々兵法書を読み、筆を手に勉学に励んでいる姿は、今世の両親にはどう映っているのだろうか。
病に伏し、余命宣告を受けたのか病床中に死んだらしい僕は気付いたら戦国時代で誕生してました。何かの冗談であればと何度思った事だろう。今でも現実逃避する癖は抜けないけど。
美濃の斎藤家に仕える竹中重元の嫡男として生を受けた僕は…何故か身体は女だった。
竹中氏に女なんて生まれてただろうかと無駄知識を掘り返しても、この時代で女が名を残すのは相当特殊であって
僕も姫として名が残る事無くひっそりと死に行くのかと不安になったけど…そもそも時間トリップとかましてや異世界転生とか、二次創作や特殊設定でしか見かけない事案を体験すると思わなかったんだもん。
しかも知ってる作品の成り代わりですよ。男なのに女として成り代わったとか実際笑えない。
女として生まれたけど、両親は第一子はどうしても男が欲しかったらしい。僕を男として育てると言う決断に唖然としたし女である事を否定されると、どうして女の身体で産まれたんだと。元の男の身体で良いじゃないかと苦悩したものだ。
男子が産まれても、子供が7つまで生き延びるのは酷な時代であるが故に。
思考を巡らながら声を掛けてきた父を見れば、じっと僕の顔を見つめて黙っている。
心配しなくても男として振る舞っているのに、バレたら…とか後の事が面倒だし。色々と考えてるんだろうなと予想しつつ
視線を書に戻して続きを捲っていれば、真一文字に閉ざしていた父の口から重々しく言葉が綴られる。
「主君がお前の才を見込んで…己が子の傍に置きたいのだと言う」
「そうですか。僕は問題ありませんが」
「お前の都合はどうでもいい。儂が懸念しているのをお前自身が良く知っておるだろう」
女である事をどんな手を使ってでも隠し通せと暗に強いている。弟の久作に跡を継がせる気なのは理解しているけど、7つを超えるまでまだ5年程年月が掛かる。
きっと僕は久作が元服したら用済みなんだろうな…そう思いつつ
「性別が発覚する様な事を起こさなければいいでしょう?」と返答をすれば僕を見ている様で見ていない目が哀れなモノを見る目に変わる。