第1章 幼少期〜9
08
門前に居る見張りの足軽に市姫を渡して逃げるつもりだったんだけどなー…
「城下町で迷子になってたみたいだけど何処のお子さんか分かる?」風に言って押し付けようとした瞬間に頭の上。ぐわしっと頭頂部を掴まれる感触に思い切り固まった。
ギギギギっと錆び付いた音がしそうな動作で振り向けば厳つい系のイケメンだけど覇気が凄まじいお兄さんが良い笑顔で立っていましたよ。
凄く凄く認めたくないけど、年代的に若い頃の信長公じゃないかやだー!!!
「信長様!?」
「構わぬ、通せ」
「はっ!」
「にいさまー」と信長公登場に喜ぶ市姫の反応に少し驚きつつ…
来い。と拒否権が存在しない言い方で市姫の手を引き門の中に入って行く。
え…何気に面倒見が良い?市姫に対するお兄ちゃんらしい態度に警戒心が吹き飛んだけど、いやいや…きっと身内だし小さいからさ!!
「何をしておるかァ」
「ご、ごめんなさい!!今行きます!」
これは逆らったら首が飛ぶ!!そう思い急いで信長公の後を必死に追いかけたけど、市姫連れてるからか歩く速度が遅い。なんだろ、え、信長公だよね?と何度もジロジロ眺めて確認してしまったけど。
やばい、これは流石に不敬過ぎて…気が抜けまくってた。無意識に敬語になったし生魔王様凄い。
ふと、視線を感じて俯いていた顔を上げれば大きな黒い瞳とかち合った。
じっと僕を見つめる市姫は、信長公から手を離してこっちに走って来たけど…信長公はそれを目で追うだけで特に何も言わないのでそのまま抱き留める。少しの時間だけど一緒に居たからか懐かれたらしい。子供は可愛いなぁ…
言われるままについて行き、通されたのは広い部屋?客間かな?
本当に何事だと動揺していると、どかりと座った信長公(多分まだ織田を継いでない)にじっと見られたままなので、正面に向かい合う様に座らせて貰った。
何だこの威圧感……