第1章 1章 崩壊そして邂逅
正午より少し早い時間帯ーーー
気温は低いものの青空が広がる晴天である。
大通りは店の店主の声や子どもたちの遊ぶ声、主婦の井戸端会議で賑わっていた。
そんな大通りを1人の男がゆっくりと歩いていた。
(まさか鬼一匹にあんなに時間がかかるとは…やはり近頃の鬼は少々厄介だな、早く帰って寝たい…。)
顔には出さないが疲労困憊で早く帰りたい義勇は、睡魔と格闘しながら帰路に着いていた。
「……の、 あの……。」
(ね、眠い…。)
「あの!」
ただひたすら家の方角を向き、歩いていた義勇は袖を少し引かれる感覚を感じ、歩みを止めた。
「……。」
引っ張られた方を向くと、少し俯いているため顔ははっきり見えないが、若い娘に袖を引かれている様だ。
「突然呼び止めてしまい申し訳ございません。とてもお疲れの様でしたので…よろしければこちらをお持ちください。」
鈴を転がした様な声で義勇に話しかけながら、娘は小さな長方形の巾着を渡してきた。
「……。」
突然呼び止めてられて、物を与えられる状況に義勇は困り果てどう断れば良いか言葉に詰まった。
「これは、心を落ち着けてくれる香が入っています。」
確かに少し顔に近づけると、不快な匂いではなく心がホッとする様な香りがする。
少しホワホワとしていた義勇だが、断るために首を振った。
「悪いが「千聡? どうかしましたか?」」
義勇の声を遮って娘と似た凛とした声が聞こえてきた。
「姉様!」
姉様と呼ばれる娘が向かいの呉服店から出てくる。
「あの…妹が、何かご迷惑をーー。」
姉の方がこちらを伺う様に近づいてきた。
そして、義勇の手元をみて状況を把握した様で口角を少しあげた。