第19章 アフター・ダンスパーティー
169.
学校が終わり、皆に手を振って見送った後に悟と共に寮へとのんびり歩いて向かう。
野薔薇と放課後、このまま外に買い物だとかご飯するのも良かったんだけれど……と、悟と合流するまではちょっと残念だったんだけど。やっぱり好きな人と一緒に過ごす時間も大切で、焦ることなくゆっくりとした歩幅でただ寮の部屋に向かってるだけなのにちょっぴりデートのような感覚に私はなってる。
高専は自然の中にぽつんとある施設。木々に囲まれてるからかまだ夏を引っ張ってる蝉達が鳴いている。放課後の少し涼しい夕方、何故かちょっぴり寂しい気持ちにさせるヒグラシの鳴き声がカナカナカナ…、とオレンジ色の空の下、離れた場所から聴こえる。
両手をポケットに入れた悟は足が長く、本当ならさくさく大きな一歩で進めるというのにゆっくり歩く私に歩幅を合わせて並んで歩いてる。ただそれだけの些細な事でさえもなんだか小さな幸せを感じて。隣から小さく、くぅ、という音が聴こえてきて思わずくすりと笑った。お腹の空く時間だしね。
「ふふ…っお腹空いたねー、夕飯何にしよっか?てか何あったっけ?」
冷蔵庫の中身は朝見たから分かる。そろそろ買い物行きたい所だけれど。野薔薇の誘いを断ってるのに買い物しに行くのは躊躇うなあ。これは部屋にある物で済ませたい所。
賞味期限が長いからって事前に買ってある冷やし中華があったはず……。あとはそろそろ消費期限が迫ってきてるうどんって所かな。
『メイン。冷やし中華かうどんか白米、どれにする?』
私の主食(または一品完結メニュー)の提案を悟に委ねる事にした。そんななんでも作れるってわけじゃないしね。
そしたら悟はこちらを向いてアイマスクをしたまま、両手の拳を自身の顔の近くに。小刻みに振り、ぶりっ子ポーズをして言う。
「やーん、そんな最初のポケモンどれにする?みたいな御三家の選択を迫られたら6V厳選したくなっちゃうー!わー究極の選択っ、悟、困っちゃう!困っちゃーうーなっ!
うどんかなー」
『困ってるとか言いつつ即答じゃねえか』
「えっへー」
軽く蹴ろうとして避けられたり、ケツを揉まれたり揉み返したりしてふざけつつ寮まで来た、後は普段過ごしてる部屋に行くだけ。
木材の僅かに軋む音を時々鳴らしながら広めの通路を並んで歩く。野外からのヒグラシの鳴き声を寮の中で聞きながら、部屋までもうすぐ。