第41章 白銀の歪んだ呪いの鎹-Cursed clamp-
399.9
終わらないと思っていた夕焼けの空は黄昏へ、そして命の終わりを感じさせる星の見えない死の夜から待ち侘びた生の朝を迎えようとしていた。
呪いの言葉はその新しい朝からゆっくりと夜に向かっていく、無垢な魂達は知ることは決して無い。ただ、気まぐれな神が予感だけを与え、"なにか"をその命が察してもその言葉の真相はふたつの命だけでは到底辿り着けない。
"今度こそ、争いのない、死から遠い普通の人生を…──"
男はそう願った、祈った。
むしろ女に呪いを掛けながらに恋に落ちていく。
"幸せだった、一緒ならばこれで満足だ。
少しだけ、あなたが羨ましかったのは心の中に秘めておこう"
満ち足りた女は故意に堕ちながら振り返った。長かった夕暮れよりも短い人生を。
今の人生はこれで終わりで、もしも次の人生があるとしたら絶対に見付けて恋をするでしょう。
その執着心を持った生命に見付けられたらそれこそ逃れる事は出来ない。運命の赤い糸?そんな曖昧なよくある話じゃ終わらない。
僅かな光さえもない、光を飲み込むブラックホールのような暗闇じゃ決してその白銀は視える事はないけれど。光の中でキラキラと輝くその髪は、糸なんて切れやすいものじゃない、血に刻まれたふたりの意思が代を繋いでいく……
親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へと想いの籠もった血の鎹は、領域の解呪をしてもたったひとつの"呪い"を帯びて……──。
数百年の闇を堕ち続け、遺伝子を彷彿とさせる絡み合う二つの魂は眩しい朝を錯覚する。
形のないふたりはそれぞれに肉を得た。遠くで生きることに慣れた大きなリズムを感じる。真似をするようにその肉を得た魂は小さな器官を"生きたい"と無意識にも懸命に動かした。
光の無い世界で朝を待つ。破水が起こる、外の世界がようこそ、と呼んでいる……。
暁を迎える時、肺いっぱいに空気を取り入れる。喜びの声を上げ、両手を上げた朝を迎えたばかりの女。
女が生きることに慣れて来た頃、ニヶ月と少し遅れて寒い冬のとある日、遠くの地で朝を迎えた男。
生まれた場所も時間も違う生命であれ、そのゆっくりと夜へ向かうふたつの道はやがてひとつになるのだと、肉体を持つ前からの命に刻みつけられている。
その道の名は…──
→【運命の白い糸】
※白銀の鎹の続編というよりほぼ別作品となります。
少し当作品の内容が出てきたりします。