第3章 呪術を使いこなす事
「そう、それはまだ低級だから式髪を使うほどじゃないけれどさ、キミの親父さんを襲ったやつの方が今のキミはちょっと近付いちゃ駄目なやつ。
七海、今から車に積んだ斧、ダッシュで取りに行く余裕ないよね?」
呻く父を床を滑らせるように引き摺って離れた位置へと移動させる七海。一度私を見て悟と共に一箇所を覗き込んでいる。
……テーブルや椅子で私の位置からはそこが見えない。私は七海が運んだ、呻く父の場所を見た。
「リフォームでもして床下収納でも作れる程度の被害にせめて抑えましょう」
男ふたり、覗き込むのに夢中だ。
時々ピギィ、とか聞こえるのは新たな呪いを祓ったんだろう、悟が謎の呪術で。
足元の無数の手はかなり減った。靴を履いてないから音が出にくい。ゆっくり、ゆっくりと父に近付く。
「ぐぅ……ぁ…」
『と、父ちゃ……っ!』
父親に手を伸ばし掛けて、その怪我に気が付く。太もも辺りから血が、そして左腕が無くなっている父。ヒュッ、と肝が冷える。母を亡くして2年、ここで大怪我の父を見て焦った。
側に駆け寄り、しゃがむ。手当どころじゃない、こんなに大怪我したんじゃあ……っ!じわじわと視界が水が侵食していく、一度瞬きをすれば頬を伝って落ちていった。
「そんなに泣くなよ、ハルカ……っへ、こんなになってもよ、片手でもハンドルくらい握れらぁ……!」
左腕があった場所を抑えていたのか、血のべっとりと着いた手をひらひらと、私に強がって笑いながらゆっくり振っている。痛みからか震えて。
その手を取る。ぬるりとして初めての大量出血の光景に私の手は冷えていた。
「…あ?なんか、傷がむずむずすんなァ……?」
私に手を握られながら顔をしかめる父。私はその顔から左手のあった場所を見る。
……驚いた。
それは肩から早送りのように肉が盛り上がっていく光景だったから。
ミチミチ……ミチ…ッ
音を立てて生えていく光景を手を握ったまま、父親と一度視線を合わせてまたその肩を父と共に見る。