第3章 呪術を使いこなす事
17.
家の玄関に入ると揉める声が聞こえる。
頭が痛くなるわ、自分の家に帰ったっていうのにさぁ。
ガシャーン!という、何かの割れる音。割れるものっていったらキッチンのハズ。きっとそっちにいるんだと、私はキッチンの方向へと駆けた。
靴下でトットット、と走るけれど小さな小石みたいの踏んだ。悟土足で入ってない?いや、自分の家とはいえ、割れる音したし私も靴履けばよかったのかも知れない。でも今更戻ってる場合じゃない。立ち止まった足はまたキッチンへと向けて進めていく。
キッチンに辿り着くと、悟はただ立ち、周りの何体もの呪いがねじ切れていく光景。そして掴みかかろうとする父が悟に避けられ続けている光景。
厳密に言うと悟が避けてるというより、父が手を伸ばすも触れられずに諦めてまた手を延ばすを繰り返してる。
『なんじゃこりゃ……』
背後からゴッゴッ、という靴の音。七海だと振り返らずとも分かる。
呪いをねじ切った悟は床をじっと見ていて、私の横を"失礼、"とすり抜けた七海は悟の側へと向かっていった。
「なん…で!殴れねぇんだ!」
父は完全に無視だ。
そのセキュリティーモード(高)の父が、ドタ、と床に倒れる。ぐあっ、と叫んで。
全く、殴りかかろうとするからだよ……と、呆れた私は足元に気をつけながら一歩、進んだ。
「待て、ハルカ!」
悟に待てと言われずとも待つしか無い。すでにもう、進めたいこの一歩が踏み出せない。
ここからはテーブルで見えない、父の倒れたであろう場所を見ている七海と、私の方を向いている悟。その進まない足元を私は見た。
──手。
手、手、手……手手手手手。無数の人の手。
その手が私の片足を掴み、燃えている。じゅう…、と燃えながら引っ込められてまた違う手が私の足を掴む。そして燃えては入れ替わる。
これが私の体の、近付く呪いを焼いたという呪力……。燃える炎はよく見る橙色で、触れてるはずなのに私は熱くない。燃えた手がぽと、と落ちたフローリングはその火が移ることがない。
『悟の言ってた、私を無意識に守ってる呪力…、』
ぽつりと零した私のその言葉を悟は拾う。