第3章 呪術を使いこなす事
『荷物取りってそういう事じゃないよね?もう帰れませんよーっていうのじゃないでしょ?父親も兄貴も、私だって帰る家なんだよ?』
「……説明してなかったのですか、あなたは」
信号が黄色の為に、スピードが落とされて停車する車。
ルームミラーで七海が私の方を見ている。
「ハルカさんの自宅、曰く付きの物件のようでして。呪いの可視化が出来ない状態のハルカさんが無意識に祓い続けてはいましたが、どうやら呪物が埋まっているのだと昨日、結果が出ました。
それで祓うついでにハルカさんが荷物を取りに行くという提案をこの方が取り付けたんですよ」
曰く付き物件。
ぽかん、と聞いたことがあって自分に関係ないだろうという次元の話。良くある、めちゃめちゃ良い部屋なのになぜか安い!とか。
ルームミラー越しの七海から横顔をこちらに向けた悟を向き、思った以上に小さな声で私は言葉を漏らした。
『……そんなに家、ヤバイの?』
普通に青春時代を謳歌して、社会人になって母が居なくなって…そんな思い出の詰まった家。私が呼び寄せて…もう居ない母も呼び寄せて…しかも、家に呪物ってのがあるって知らなかった。
「呪いは至るところにあるけれど君が殺虫灯だからねー、廃病院を圧縮した一軒家になってる」
『そんなに!?』
「怪人協会アジトは言い過ぎかなぁ、とにかく新作のプレステの店頭販売みたいになってるよ」
『絶対盛ってるでしょ、それ!集まり過ぎて怖ぇーよ!』
悟に突っ込んでいれば、信号が青になって走り出す車。
窓の外を眺めながら、ぽくぽく歩道を歩く人達や、路地裏から奇妙なモノが顔を出しているのを目撃する。呪い、こんなに身近に居るのに見えない人には全く気が付かないんだなあ。
「そこだからねー、おや?門番かな?呪いが居るぞ」
「はい、この時点でわかりますね」
窓の外を眺めるのから、進行方向を見る。
毎日通るこの道がまるで別の次元に見えてしまう。思わず口が開いてしまった。
『ここ…バケモンの商業施設かなんかでしたっけ?』
「後ろ、現実逃避しない。まごうこと無くキミん家だねー、握手会でもやってるんじゃないの?ハルカの出待ちとか」