第18章 美術品のように愛でないで
163.裏
ゆらり、と長身の男が左右に揺れつつゆっくりと室内に入って、ドアを静かに閉める。その一見落ち着いた様に見える動作が怒りを込めているのは丸わかりだった。
私はすがりついて泣いていた為に、身を寄せていた傑から体を起こす。キャスター付きの椅子に座ったまま、足先で少し下がって傑から距離を取り、私は立ち上がる。遅れて傑もその場で椅子から腰を上げ、ドアの近くでいつもよりもかなり静かな悟の方を向いた。
アイマスクをした状態の悟の口元は弧を描いている、多くの表情が隠れていてもピリつく空気。笑っていても楽しいとか嬉しいって感情でも表情じゃない笑顔。
「……やあ、傑にハルカ。
ククッ……、なーにこれ?僕ってばまさかの浮気現場に遭遇しちゃった感じ?オマエら医務室でこうやってさあ、しょっちゅう逢瀬してたワケ?」
状況だけみたらそうも思えるけれど、冷静になにがあったか聞けば解決したろうに。
この状況に巻き込んでしまった傑に申し訳ない。その傑が悟に冷静に話しかける。
「勘違いしてるよ、悟。私は、」
「勘違いもクソもねえだろ。なんで俺のハルカとさっき抱き合ってたんだ?それに下着の話してたろ?あ゙?人のモンかっ攫って俺が居ない間にこうやって隠れてヤリまくってたのかよ?」
片手でアイマスクを乱暴に外し投げた悟。診察用のベッドを囲む、開けられたカーテンに軽くぶつかって床に静かに落ちたアイマスク。
素顔を晒した悟の視線は冷酷なもので、私や親友に向けるものではなかった。ごくり、と緊張して生唾を飲み込む。冷や汗が出てきた。
少しだけ歩を進めてもドアの近くという場所を維持してる悟。腕を組んで、ふー、とため息を吐いて。
「傑、どういうつもりなんだよ。俺の女だぜ?あれだけ取るなっつったろ…っ!人のモンだってそれを分かってて抱いたんだろ?背徳感の中で女を抱くのは気持ち良かったか?」
蔑む視線を送りながら、鼻で笑った悟。
「なあ?……イイに決まってるよな?ハルカの中、挿れたらすっげえ絡みついて一度突っ込んだら最後まで離してくれないだろ?」
「だから悟、私は別にハルカとは…っ、」
怒りに満ちた悟は発言を遮った。
ドン、と叩いたドア。ガラスに直接平手で叩いた訳じゃないのにドアの中ほどから上までのガラスにピシッ、と雷槌のようなヒビが一気に入った。