第18章 美術品のように愛でないで
呆れたような声の傑。
私は自身の膝の上……左右のそれぞれの手をぎゅっ、と握り締める。そのふたつの握りこぶしに視線を落とした。
「で、急にそんな事聞いて何が言いたいのかな?」
『傑さん。あの、悟が……しなくなったんです』
「は?あの悟が…?」
視線を上げれば豆鉄砲でも食らったみたいな表情の傑。
この際だ、この人に相談を最後まで乗ってもらおう!と勇気を振り絞った。
『あの毎日毎日、毎晩毎晩盛ってた悟が…っ!
ここ1ヶ月以上誘わないし、一緒にお風呂に入ってもその場で反応しないし、ベッドでもしないんですっ!
だから他にいい人が居るのかと思ったり、ついに性的に落ち着き始めたのかと思ったり、ただ単に悟がぼっ……、失礼。
勃起不全なんじゃないかって思ったり…!』
「勃……んんっ、待って、ちょっと待ってくれないかな?」
片手を私に向けて傑はもう片手で顔を隠して居る。呻きながら。
どうして。男あるあるとか?私がモロに言ったからか?うーんうーんと呻く傑は両手共膝の上に置き、大変言いにくそうに口を開く。
「それはね。君の推測は全部外れているよ。私は原因がなんとなく分かる。ハルカの事を大事に想うあまりに手が出せないんだよ、あいつは」
『は…?どうしてそんな急に……下半身に問題があるのかって思っても隠れてひとりしてるっぽいし…そんなんじゃ、大事に想ってる意味が無いじゃないですか…』
私はそう離れてただ愛でられるんじゃなくて、きちんと抱かれて愛されたかった。
ずっとしたくて期待して、その期待には沿える事なくただ包むだけの抱かれ方で眠りにつく。物足りなくてただの睡眠じゃ満たされない。私がしたい抱かれ方はもっと、激しくも穏やかな男女の交わる性行為。繁殖行為をしたいんじゃない、愛情確認での意味の性行為をしたくて。ただのスキンシップでは満たされなくてずっと我慢していた。それも限界が近い、昨日でタガが外れてしまったみたい。
今更になって大事に想うあまりに性行為から遠退く生活をされてしまったら、悟の内なる心に秘められた事を知らない私は困惑するだけ。
少しだけ明るい表情で傑は言う。
「少し話は変わるけれど稽古、君はかなり手加減されてはいないかな?」
『手加減…、』