第18章 美術品のように愛でないで
今じゃ格闘技は家族にも高専での体術としてもしっかりと学んでいる。割と激しめに決めても下は砂だしボコボコのボコにしてやろうか、くらいに考えながら男を睨んだ。正直、こいつに勝てる自信あるし。
「…そう睨んじゃって。わあ、怖いなあ!」
唇をぺろりと舐めた男はぎゅっ、と掴む力を強める。
……ほん投げてやろうか、この…っ!
「へえ…そういう事分かってんだ?じゃあ余計にさー…おねーさん、もっと遊びを覚えた方が良いよ、ひとりの男に尽くさないでさー?」
『……断る』
「海水浴よりももっと開放的になれる遊び、しない?俺の車ん中でさ……すっごくやみつきになる事しようぜ?」
あ。ビリビリとする様な圧を感じる。やたらと自信過剰な海の男の背後から…。
奥側からゆっくりと歩を進めてやって来る私が探していた人。
『そういう遊びしないんで。ていうか、探してた人見つかったから。ほら、あんたの後ろ』
「ハッタリかまそうったってそうはいかないよ?そうやって俺から逃げるつもりなんで──…」
右手で指差すと男の斜め後ろから覗き込む悟。
きっと男の視界に悟が入ったんだと思うけれど、男がビクッ、としながら振り返ると悟と視線がばっちり合って、私を掴んでいた力が緩む。その隙に手を男から抜き出した。
その様子を見た悟は小さく「よし…」と呟いた。
「余計なおせっかい男に捕まっちゃったねー、ハルカ」
『誰かさんが捕まえさせえくれないからこうなったんじゃないの?』
ちょっと圧迫感があっただけで怪我もなく。掴まれた所を右手で擦りながら気まずそうな海の男から悟へと視線を向ける。
ふふ、と妖艶に笑う悟と、居心地の悪そうな男はじりっ…と一歩後退りして逃げ出そうとしていた。
その肩にぱちん、と手を置く悟。男が縦にビクン!と小さく跳ねる。さっきまでの自信はどこへ?
コノハミミズクの様に、天敵に襲われまいと細くなってる気がするんですが…?