第18章 美術品のように愛でないで
ありがたい提案。二手ならば楽ちんでは。でも、それは絆あるクラスメイトや先輩ならばの話であって、見知らぬ人に頼るのも。
はは、と愛想笑いを浮かべて首を振った。
『いや、そこまでは良いです。提案はありがとう。
もうちょっとこの先とか私探してみるんで…、』
「いや、待ってよ。もしかしたらさ、探してる人って場所移動してんのかもよ?ここより反対側の浜辺とかさー……あっちも海水浴場として人気なんだよね!ここの階段上がった所に俺の車あるからちょっとそっちも見に行こうか?」
がし、と大きく熱っぽい手がこの場から離れようとした私の左手首を掴んだ。
流石に分かるわ、この人お人好しじゃなくって女だからってひとり行動してる私に目を付けてんだ。
出来るだけ低い声を出す、高い声じゃ余計に煽るって兄から聞いてる。
『……そういうの、いいです。それに私探してるの、その…だっ、旦那さんなんで…』
おそらくはこの状況さえもどっかの影から見てると思われる。
……この会話、悟に聞かれていませんようにっ!
男は、ん?と不思議そうな顔をして歯を見せて笑った。
「なら余計に合流出来るようにさー、車早く乗って反対側から探そ?」
やたらと車を主張してんなー、と疑問に思えてきた。この人にとって車が重要らしい。外車とかオープンカーだとかそれに乗せてドライブしたがりもいるだろうけれど。
ふと探るために車についてを手首を掴まれたままに聞いた。
『ちなみにお兄さんの車、スポーツカー?ワゴン車?』
「ん?ワゴン車だよ?」
『フィルム張ってる?黒いの』
にこ、と笑って「そうだよ」と返事をするしっかり掴んで離してくれない男。これは完全にアウトですわ。外から見えない、その中で行われるっつったらマジックミラー号ですわ。
『完全にただ連れ込むヤツですね、お断りします!』
かつて父が言っていた。
大きめの車…ワゴン車で外から中が見えない様になってるフィルム貼りの窓の車には近付くなよ?全てがそうとは限らないけれど、連れ込まれてとんでもない事をされるからな?
同じことを兄も私に言っていた。家族ふたりが別々の機会に言うなんて余程の事だと注意していたけれど、ここで実践されるのは御免だ。