第3章 呪術を使いこなす事
16.
仮の部屋を充てがわれ、荷物を鞄から抜いていく。学生寮…人(術師を目指す者)が少ない為に部屋の埋まりは少ない。その一室だった。
悟が言うには呪いが可視化した私が家にひとり戻って通うのは手間だろうという事での配慮だった。また、ここで呪術の基本を知りながら、持ってきた春日家の書類も読んでここで使えるようになれ、と。
家から必要なものを取りに行くという事で私は今、鞄を空にして自宅に向かう準備をしている。
ひとりで帰って良いなら別に良いけれど、今ではもう"見える側"。呪力があると言われても実感の無い私は呪術というモノが分からない。
悠仁が部屋で教えてくれた、"呪力は電気、呪術は電化製品"という例えがものすごく良く分かった。だから今の私は電気が通ってるコンセントがあるけれど、電化製品のコンセントプラグが差していない状態。
私は空にした軽いバッグを持って、仮の部屋を出ようとブーツを履いて玄関のドアノブを押した。
ガチャ、と出た先には男がふたり。
ひとりはここ数日振り回されてまくったものの、あれこれ助けてくれた悟。サングラスだったのをアイマスクに変えている。片手を上げて私にやあ、と声を掛けてきて、私は悟のすぐとなりを見た。
軽薄な悟とは正反対のぴしっとした人。少し変わったサングラスをしている。そして思い切り悟が肩を組んでいるのに、真顔を貫いている。
「ハルカ、こちらは僕の後輩の脱サラ呪術師の七海君です。これからハルカの家に荷物取りと任務に行くから一緒に来てもらうことにしましたー!」
『……ハルカです、宜しくお願いします』
「七海です。こちらこそ宜しくお願いします」
へらへらとする悟とは正反対だ。目をぱちくりさせて私はふたりを見て比べた。
『凄い……先輩と後輩性格と立場が正反対だ…!』
「ほんとキミそういう所はっきり言うよね…、七海はさー会社勤めしてたから真面目なんだよね。一級呪術師だし。
ちなみにハルカには言ってなかったけれど僕は特級呪術師です。特級…ほら、特級だよ?握手する?サイン欲しい?特級呪術師の」
『あー、ハイハイそういうファンサ結構ですんで』
七海に絡んでいた悟が私に絡んでこようとしてきたので振り返り、部屋の施錠をする。
鍵を締め終えた所でふたりに向き直ると少し萎んだ悟が居る。