第17章 幸福に生まれ変われ
『やだ』
「えっ何、イヤイヤ期?」
伏黒が少し前に進んで呪いを祓い出した。鵺だと効率的じゃない、だからこその玉犬。数が多く忙しそうに見える。
だから悟の前で伏黒の方向を指した、私じゃなくて前見ろよ、と。
『イヤイヤ期とかどっかの誰かさんと一緒にしないで下さいません?ってか前見なよ、伏黒が先に行っちゃってるよ、忙しそうだよ?』
悟はへらっ、と余裕そうで。
「恵は大丈夫でしょー、ハルカは相手に触れさえすれば良いけれどこういう大量に迫ってくるのに向いてない。要は適材適所。差別してるわけじゃないよ?これでも僕はキミ達一年の担任、教師だからねー、状況に合わせた能力の使い分けをしてんの」
淡々と説明していく悟。それはとても納得できる内容でこくり、と頷くしかない。
「ハルカの場合は攻撃性に特化してるってより回復面に優れてるからねー…今は大人しく呪いを寄せてて。今、ハルカが動くって事は恵が怪我をした時とかって意味でもある。キミはそのとっておきを温存しながら、最終的にもしもがあったら"罰祟り"をすれば良い。今回はその出番はないけれどね?」
そうするしか無いってのは分かってるけれど。正論……これは仕方ないか、と諦めた。そんな私を見て悟はにこにこと笑って頬をぷにっ、と数回突く。
なにすんだ、とその手をすぐに払い除けたけれど。
「あらやだっ!フグみたいにぷくっと膨れてたよっ!やだ、んもぉ、どったの?可愛いねー、見た?恵見た?
恵ー!恵ー!恵っ、これが僕の生徒かつ奥さんだよ?ちゃんと見てた?すっげ可愛かったの、今!」
「『うるさい』です」
呪いを祓いながら苛ついてる伏黒が思わず振り向くほどにやかましかった悟。
そんなふざけたやりとりも挟みつつ、1階から2階、3階…と私達は順調に進んでいった。
どこも誰も居ない。
私が居た頃よりはこの会社も少しはまともになったんだ。入れ替わりも激しければ、新しい風も吹き込むってワケだ。呪いは残ってるけれど!
……なんて思いながら、4階への階段を登っていった。