第3章 呪術を使いこなす事
「マジで言ってるの?そもそも犠牲ばかり出して多額の資金かき集めるのが目的の一族だからもう滅びたんじゃなかったか?近頃全然噂聞かないし。もしかしてお前が言ってるのはその春日の血族の子だって言いたいのか?自称だろうな…だって呪術師だけじゃなく良いところのお家だって欲しがるものじゃないか」
春日についての知識はあちこちで聞かれていた。硝子は、昔春日という名字の女達が、自らの身体を張って囮や、術者の致命傷を吸い取って髪を白くさせていくという話を聞いていた。その白髪化の先の待ち受ける運命についても。”髪は女の命"とはよく言うものだ、全てを白く染めた後に彼女達に待ち受けるのは死。戦うというよりも誰かの盾になり、傷を吸い死ぬための血族。
硝子の言葉を聞き終えた悟は"だよねー"と返し、その言葉にいつもの冗談か、と硝子は顔に僅かに怒りを浮かべて肩を落とした。
本当に居たのなら、確かに知識がほとんど無くても治療だけは完璧に出来る。
ただし、その人物がずっと居られるわけじゃない。永久機関ではないという事も知っている。噂程度ではあったけれども。
「……わざわざ仕事の邪魔しにきたってワケ?」
「いいや?滅びたとか自称だとかそれは硝子の考えだろ。
僕が言ってる事……マジだよ。生き残りを数日前に見かけてね」
「はぁ…!?」
歩行者天国の事を悟は思い出す。
それは偶然。その人混みの中で呪いや呪力の気配を感じた。その気配に釣られるように行けば、非術者。呪いに気付くこともなく、近付く呪いに対して体表に滲み出てくる呪力。
その場所は肩で呪いはたくさんの人間からその女性に吸い込まれるように近付くと、体表の呪力が細いたくさんのものが蠢き始めている。
──興味深い。もう少しこの非術者の様子を見てみよう。
呪いがじっと女性を見て、ニタリと笑う。そして飛びかかろうとした瞬間に細い呪力がムチのように、太陽のフレアのようにしなり撃退した。
本当に非術者なのか確認したい。悟がそう興味をそそられていると、離れた場所から新しい呪いが近付く。やはり一直線にのたのたとした動きでその女性に吸い込まれるように近付く。
ゆっくりと女性を尾行しながら、またもカウンター攻撃で女性の知らぬ間に祓われていく様子を見て、3体目の呪い、いや呪霊が近付いていくのを目撃した。