第3章 呪術を使いこなす事
15.
カツ、カツ、カツ。
大股気味に進んでいく男はポケットから携帯端末を取り出す。
先程撮った写真を見て顔がにやけ、クス、と声を出して笑った。なんだか最近は新しい玩具を手に入れたように彼はいつもよりもはしゃいでしまっている。
ガラッ。ドアを開け室内を見渡す。
その室内には椅子に座り、パソコンに何かを打ち込む作業をしている家入硝子が居た。
「硝子、暇?」
「暇に見えたらその目を解剖させてみなよ」
「それはヤダ。でも暇じゃないって事は人手が欲しいって事だろ?」
カタカタ、と忙しなく動く指。
画面には報告書。前日怪我をした呪術師の傷の具合と治療後の書面をパソコンで処理をしている。
一度も振り返る事なく、ずっと画面に向き合っている所提出期限が近いのかも知れない。
その硝子を後ろから悟は楽しげに言葉を追加する。
「もしかしたら貴重な治療要員になるかもしれない子居るんだけど」
「子?その子いくつ?」
「23だったかな。ただ今は呪術に関しての知識がぜーんぜん無いんだけれど」
カタ、と別の生き物の様にキーボードを這い回る指先は止まり、彼女の座る椅子がギィ、と軋む。そのまま立ち上がり、ようやく硝子は悟の顔を見上げた。
ニヤケ顔の悟に対して、硝子の顔は真剣そのものだった。片足に体重を掛け、腕を組む。その動作で彼女の白衣が揺れた。
「……言っとくけど、治療にも知識は必要。呪術に触れない人が急に回復できます、なんて出来ないだろ?」
「春日の血族、身代わりの一族って言ったらどう?」
「──はぁ?」
夢見がちな発言を改めさせようとしていた硝子は、悟の言葉に目を丸くした。
そして片手を額に当てため息を吐き、そのまま手で前髪を掻き上げる。ニヤリと笑う悟に鼻で彼女は笑った。