第3章 呪術を使いこなす事
『はー、これでヴォルデモート扱いせずに済むわー…じゃあ、これからは……私は学生でもないから先生は付けなくて良いし、五条さんって呼べば良いのか』
うんうん、と頷いて握った釘崎の手を離した時だった。伏黒が私の視界の中でビクンッと体を揺らす。
彼は私を見ず、彼の正面を向いたままにあの、と呟いた。
「ハルカさん……窓、窓」
苦笑いをしている伏黒が指で窓を指していて。目の前の釘崎がその方向を見てヒィッ!と悲鳴を上げ。振り返った悠仁が一度ビクンッ、と体を跳ねさせて固まり。
私は首が錆びついたロボットのように、ギギギ、と本能が嫌がる中窓を見る。そこには。
──窓に両手を付け、ラウンド型のサングラスをした悟がガラスを隔てて覗いていた。
「五条"さん"だって?ハルカ、キミは凝りないね~」
『ぎゃーーーっ!』
心臓が口からまろび出るかと思ったわっ!座ってたのを立ち上がろうと焦りすぎて転けて机に顎をゴチン、と打ち、靴下で滑りかけながらも悠仁の部屋から玄関へと走り出した。
靴を視界に入れながら私はお邪魔しました!と叫び、右手で施錠を解き、左手に掴んだドアノブで玄関を開ける……その時だった。
「はーい、飛んで火に入る夏の虫。チェックメイト!」
『う、嘘だっ!』
さっきまで背後の窓の外に居たのに反対側に居たナニコレミステリー。きっと龍太郎からガン逃げしていた時のあの呪術なんだろう。それともドラえもんでも呼び寄せたか。
ニィ…と笑ってその目の前のサングラスの男は、縮こまる私を引き寄せ、慣れたように唇を塞いでいく。
ちゅ、と一度離れてついばむようにもう一度。
背後からドタドタと足音が聞こえる。