第16章 覚醒のトリガー
背後の方で下手に近付いたら刺激するでしょっ!という声が聞こえる。人質が居ることで物事が上手く運ばない。
「あとはリベルタの為にという、縛りのまだ効くクリミアとハルカさえ入ればこちらのものです」
「おま、え……っ!」
座り込んで随分と息苦しそうな祖母。私の視界に後ろから伸ばされた手が見えた…龍太郎が手を伸ばしていた。
握りしめた刀、持ち上げる腕、たるんだワイヤーをひっぱり祖母へと突き立てる刃。
そこから振り抜き、血飛沫と刀に着いた血液が周囲に飛び散る光景。
こんなにも情報量が多いっていうのにたったの2、3秒での出来事だった。足が前に進むことも、止める時間もなく。
『……あ、』
祖母を斬ったというのに、にこりと爽やかな笑みを浮かべたボス。
「出涸らしに名を着けるとしたら"デコイ"でしょうかね?立派な囮としての最期を迎えた。ああ、デコイらしい!
ほら、これでラブは事実上たったひとりの春日の血族。希少価値はこうして跳ね上がりましたね?何億の価値があるのでしょうね?手放せない人材になりましたね!」
なにか、深く意味を考えたらブチ切れてしまいそうな事を言ってるけど。まだ、あの切られた程度の祖母を救うに間に合うかも知れない。
『……っ、』
何も考えずに一直線に走り出していた。
伸びた悟の手も、潜り抜けて駆けていった。私生活の中で何度か悟に捕まえられそうになった時にすり抜ける事を鍛えてたってのもある。僅かに髪をかするくらいで、背に「ハルカ!」って名前を呼ばれたけれども。
いくら憎くても嫌いでも、一応は祖母だし…。
目の前で怪我をしたなら今なら治せるはずだし……。
首を切られた人もすぐに蘇らせた。首が跳ね飛ばされて数秒以内なら治癒が効いてた……あの最期では繋ぐ頭部が無くて死んでしまったけれど。
ほら、散々リベルタで治療を私は繰り返したから。初めて父親を治した時はゆっくりとしたスピードで、医務室で何度も何度も補助監督生や窓、生徒といった高専関係者を治して、1分前後まで時間を縮めたぞっ!だなんて喜んで。
……今じゃ、重傷だって10秒以内でいけるし。
今なら、今ならあの斬られてすぐの状態の祖母だって…!なんとか出来るのかもしれない!