第16章 覚醒のトリガー
「ハルカっ!」
背後の悟が何度も私に手を伸ばしたのか、数歩駆けた所でくんっ、と服が引っ張られて、服の中で小さくりん、と鈴の音がした。まるで犬や猫みたいに服を、首根っこを悟に掴まれて宙にぶら下がってる。
このままじゃ間に合わないよ、なんで悟は私の邪魔をするの?見上げた悟の口元は一文字だった。
「駄目だ、このまま行くのは!予定変更、ハルカは寺田に近付くの禁止!相手の思う壺だ!」
『今なら間に合うっ!死んで直ぐなら治療は可能、婆ちゃんも助かるんだよ!?』
「それでも駄目、今はこの場でハルカが一番大事。
龍太郎ー!このままハルカ持ってて!」
ぐい、と高い位置で掴まれた服ががくんと一度落ち、こつんとつま先が床のタイルに当たる。両手で後方の手を離そうと私はじたばたと藻掻いた。しっかりと握られてて離れない。
睨んだ先の悟は口元にふっ、と笑みを零してすぐ隣から消えた。何処だと探さずとも視界に居る。祖母を見たままに放心状態のマリアを抱えた瞬間が見え、その様子を目を見開き見ていたリベルタのボス。
瞬時にマリアを肩に抱えた悟が側に戻って来た。瞬きをする前の視界の中の光景はこれまたあっという間の行動だった。
「マリアっ!」
その安心した瞬間に龍太郎の力が抜けたんだと思う。
つま先だけ当たってた足がしっかりと踵まで足が着けるようになった。振り返れば悟が下ろしたマリアを片腕で抱き寄せる龍太郎、更に先に見えるのは呪力を流し込まれたのか強化された呪霊と戦う伏黒やちらりと見えたのが京都の一部生徒。龍太郎達の姿で奥までは見えないけれど皆が忙しなく戦っていた。出入り口付近まで敵の呪霊が行ってるから、確かにあの位置で待機するのは難しかった。そして人質の救出も…。片方助けられただけでも良かった……けれどさ。
私は何も出来ていない、身内をみすみす殺されてしまっただけじゃなくてこうして無様に捕まえられて。何のためにここに来たんだろう?せめて、私と祖母の分の復讐くらいは遂げたって良いんじゃあないだろうか?