第16章 覚醒のトリガー
偉そうに言える身じゃない。でも、助けを求める身で、走ってきて拘束具も檻の鉄格子も私を逃げられなくするものから悟は解き放ってくれた。暴走しかけた彼の姿も見た。だからあの時の悟の様に今の龍太郎も一生懸命なんだ。
呆れたように肩を落とした悟。
「……ビンタする時、手加減なしのマジビンタだから。でもなるべくなら僕にハルカを傷付ける事はさせないで欲しいな」
静かに諭すように怒る声。その言葉に私は深く頷く。
そんな事を言う彼の優しいその叱り方がとても私に効果てきめんで彼には私に力を振るわせたくない。両者共に傷付く事って事だし。
深く息を吐きながら肩が下がる悟。ふふ、と小さく笑う。
「それからハルカ。目的地に着くまでで良いんだけれど物は相談でね?」
『……何?出来ることなら強力するけれど…』
「僕の可愛い我儘なんだけど、その着くまでの少しの間だけ手を繋いで良いかな?」
座席のシート上、天に手のひらを向けてぐっぱ!と手を動かす悟。なんだ、そういう事か。そんな我儘くらい私には簡単な事で。
『いいよ、はい』
その大きな手のひらに私の左手を重ね、指が絡めばきゅっとしっかり繋がれる手。シート上の繋いだ手は悟によって手首のスナップで揺すられる。
「やったー!ひゅうひゅうっ、流石僕の奥さんだ!
いつも僕にだけこう優しくしてくれれば良いな~、ゲロ甘く朝から晩まで奥さんに甘やかされたいっ!」
ちょっと調子が戻りつつある、子供モードへのゲージ。
ちょっと注意しとかないとすーぐこうなる。隣の緩んだ表情の悟に笑みを浮かべながら注意をしておく。
『あまり甘やかすと今みたいにこくから飴と鞭の比率は今まで通り変わんないからね?』
「ちぇーっ、もっと飴度を高くしてくれれば良いのにー」
本当はさ。ピンチに助けに来てくれて、たくさんいろんな事を教えてくれてる悟にはもっと甘やかしたって良いなんて思っちゃいるけれど。彼の性格上それはなかなか叶わない事。