第16章 覚醒のトリガー
ちょいちょい、と私の袖を引っ張るお隣さん。私が話してる最中になんだ、と斜め下、ちゃんとした体勢で座る悟を見る。座れるならちゃんと始めから座れば良いのに、と思いつつ話しかけたがる悟をじっと見る。サングラスの上の眉は困り眉。
「ちょっとー、ハルカ!いい年こいてそんなお子様みたいに膝立ちして他の子とお喋りしちゃ駄目でしょ?先生、おこだからね?もーっ、気を付けて下さいねー」
『………チッ!数十秒前のあんたに言えよ!…歌姫さん、後ほど』
ええ、と苦笑いする歌姫を見て。私はきちんと座り直す。
もちろん、隣の席への苦情も忘れない。声は適切な声量でね。
「悟君?おまいう…いや違うな、さというって知ってる?悟が言うなって意味なんだけれど?数分前までキミ何やってたか自分で言ってごらん?ん?』
席に座り、隣の悟の肩に手を乗せて揺する。父が文句をつける時みたいな、相手の顔を覗き込むようにしながら揺すり、チッ、と舌打ちしながら。
「おーこわっ!ヤクザだヤクザ!」
そしてやや静かな新幹線内に車内販売の女性が入ってきたら指を指した悟。
「あっ!ほらハルカ、車内販売きたよー!シンカンセンスゴイカタイアイスあるんじゃない?僕、あれ大好き!」
『とりあえず落ち着けー?怒られている時に視線を反らす犬かー?人間なんだから話を聞く、そして話を逸らさない事、良いね?』
……やや落ち着きの無い悟に少し振り回されつつ、アイス食ってる場合かっ!とつっこみつつ。私達を乗せた新幹線は目的地である東京へと到着した。
高専から何台か迎えに駅へ向かって来ているらしいけれど、と改札を通った所で走り出す龍太郎。悟と私で顔を合わせて彼の後を走って追った。
後ろから真依が、ちょっと!と声を掛けているけれど私は龍太郎を見失わない様に追う。悟が後ろを振り返って叫んでいた。
「僕らは先に行く!歌姫と生徒達は高専から来てる車に乗ったらそのまま来て!」
「は、はあ~!?ちょっと、何を勝手に…五条!」