第16章 覚醒のトリガー
左斜め後ろを向いてる。多分そっちに歌姫がいるっぽい。ウザ絡みを始めている悟、歌姫が「がっついてねーよ!」と声を上げた瞬間。
『……そうやって人に迷惑を掛けないっ!』
アイマスクを両手に持ち、広げるとサングラスをした悟の頭上からすぽ!と口元まで通した。
もが、と一度何か喋りかけた所で口元はマスク(アイマスク)で覆われ言葉が遮られた悟の頭に手を置くとそのままぐい、と座らせる。
『お座りっ』
「むぐ、犬夜叉じゃないんだけどーっ!?キミっていつからかごめだったのさー!?」
『黙れ、充分に騒いだでしょ、マスクを外すな』
首元まで指先で降ろされたアイマスク。口が不服そうに尖ってる。
「だってえ!想い出話をさー、」
『時と場合、そして空気をお読み?悟、バニッシュ・サイレスな?』
「ソンナー」
座席の背もたれを向いて悟は正座した。顔だけはこっちを向いて。何か言いたそうな目でこっちを見てるのを見つつひょこっと悟のように私も膝立ちして手を合わせて静かに頭を下げる。ほんっと、うちの28歳児がすみません。真後ろは金髪の2つ結びの子、水色の髪の子が座っていて、やや苦笑いをしている。
『監督不十分ですいません、今から降りる時まで黙らせときます……』
女の子ふたりの後ろには東堂や真依などが見える。その同年代と思われる子らも居るから、真後ろのふたり含むまだ会ったことの無い名前もよく知らない、姉妹校の生徒だとは思うけれど。
……私が高専に来るほんの少し前であったら、交流会で顔合わせしてるらしいんだけれどね。私は当時居なかったし。
悟の暴走でかやつれ、しわしわピカチュウ状態になっている真後ろの水色の子。視線は左斜め、歌姫が座っている方向へ。
「ハルカもう大丈夫なの?」
『歌姫さん、』
歌姫の言う、"もう大丈夫"は多分ぼーっとしていた私についてだと思うのだけれど。気を遣ってくれていたみたいだ、一応祖母が連れ攫われてるって事もあるからか。
私の座ってる席から歌姫は3つ後ろの反対側の座席だった。
『……大丈夫です。というかまたもご迷惑を掛けてすいま……
何?私話してんだけれど?』