第2章 視界から呪いへの鎹
じっと覗き込んでいたからか、悟には私が、話しかけている人が分からないんじゃないのかと思われたようだった。
彼はまた、自身を指差して少し前傾姿勢で、ちょっとあざとく首をかしげている。
「あれ、ハルカちゃんもしかして分かんない?俺だよ、オレオレ。ホコ天で会った悟くんです」
『(オレオレ詐欺かな…)流石に慣れなれしすぎて分かるけれど……、あんた…じゃなくって悟さん?なんでここに居るの?』
目隠しにいろ、グラサンの今の状態にしろとても目立つ。
私はこの駅では悟の姿を初めて見た。家があるとかじゃなくて、知り合いだとか仕事でとかそういう理由で来ているのかな、ただそういう風に気になっただけ。
背の高い悟は前傾姿勢はそのままで手をズボンのポケットに突っ込んだ状態で私の質問に答えていく。
「んー?き・ま・ぐ・れ、かなー、まあ僕の仕事の関係もあるけれどねっ」
『はあ……仕事の関係…、なんの?』
「こう見えて先生してるのよん、僕」
教師にしては……
うん……へえ…うん…。
悟は疑う表情で私を覗き込んだ。
「今そう見えないとか思ったでしょ?」
『いや、そんな事、』
それから、と付け足す悟は私の肩に手を触れた。
ぽんっ、というくらいの勢い。けれども駅のホームに風が吹いた。
一体何が起こったんだろう?重かった肩の疲れも吹っ飛んでしまった気がする…。
悟はにっこりと笑って私の右手を取る。
「あーこんな風にマジシャンみたいな事もやってたり?
僕とハルカちゃんの付き合いだから、何かあったら連絡ちょうだいよ、はいコレ僕の連絡先~」
『(なんの付き合いだ!?)ちょ、ちょっと…、』
「道草食わずに帰るんだぞー、悟クンとの約束だよ?それじゃ、ばいばーいっ!」
スキップして去っていく嵐のような男。
なんだったんだ、と先程私の右手に無理矢理両手で握らされた、くしゃくしゃの紙を広げた。手書きの文字で"五条 悟"と書かれ、携帯番号が書かれていた。その後ろを見れば、都内で買ったであろう、チョコレート専門店のレシート。
このまま捨てても良いのだろうけれど、電話掛かってきた時に誰だか分かんないと困るしな…、とホームのベンチに座って携帯に登録をした、五条…悟…っと。