第16章 覚醒のトリガー
『"末裔ほど主導権を握るという決まり事を上手く使ってきたと見える。降ろせるのはひとり、けれどもその者の術式を降ろしている間は使うことが出来るというわけだ、私であれば昔使っていた式神等の…聞いているのか?ハルカ?"……口はひとつしかないって言うのに、この初代はお喋りが過ぎるようで。ちょっと還って貰うね…』
「……ふーん、なるほどね。ああ、もう還った感じだねー…?」
確かに領域に還ったよ。そこまで見えるとかこの人の目にはどこまでの事が見えてるんだろうな、と思いながらも頷く。
もう私の頭の中で騒ぐ存在は居ない、口を借りてく人も。私の体は私だけの物になってる。身体の中が静かになった気がする。
『うん、なんかね、先祖という死者の降霊術…私に一時的に降ろすにちなんで"髪降ろし"はどうか?とかお喋りしてお帰りになりました。
還ったとかそこまで悟には見えるものなの?』
覗き込むのは今度は私の番。じっと悟の瞳を覗き込む。
覗かれるままにサングラスをずらしたままある意味では見つめ合ってる。スカイブルーが少し前まで居た沖縄の空を思い出させる。
「見えるよ、ハルカがじっくりと考えている時もキミの中の呪力が体中を包んでいくのも…ゆっくりと馴染むのも。異質な呪力……ご先祖が入った所も抜けた所も。
……僕に言わずともまだあるんだろ?とっておきかな?それは」
本当に良く見えるんだなあ、その六眼は。
ネタバレする手前の悟。私はまだ実践では使っていないもうひとつのとっておきの方が、今回の一番の収穫物で。
『うん、私としてはこっちの方が良いものを得られたかなって思ってるよ……呪いだけじゃなくて、人に効果を出すんだけれど』
「へえー…?」
覗き込むのを止めた悟は座席の背もたれにどかっと座って両手の指を組み、そして足を組む。
満足げな顔をして顔をこちらに向けて私に笑いかけた。
「……いい顔してるよ、今のハルカ。しっかりと覚悟の決まってる顔だ。でも、絶対に…、絶対に無茶だけはするなよ?」
笑っていたけれど最後は真剣で、ちょっとだけ怒っているように見えて。
私の心の奥の殺意を必死に隠しながら、うんと一度頷いた。