第16章 覚醒のトリガー
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待たせたタクシーに龍太郎を追加した三人で乗り込んで駅へと向かっている。姉妹校からも何人か向かっていると悟から聞いた。
助手席に乗っている龍太郎。目の前のそのちらつく後頭部を私は見ていた。
彼は呪いは見えるけれど呪術は使えない。祖母の身の回りの世話の他、格闘術を身に着けているから基本はそっちが得意らしい。
一応、短剣の呪具を所持しているそうで玄関で合流時はパッと見て丸腰に見えた。見せてもらう時間は無かったけれどスーツの内側に隠してるらしい。リベルタの構成員の中には呪霊を操る男が居るそうで今回、万が一の為にも龍太郎も備えてきてる。
ハルカ、と私の右隣に座る悟の声に横を向いた。
「ハルカ。守られるべき人が第一に起こしちゃいけない事ってなんだと思う?」
腕を組んで質問する悟。ふざけた質問じゃなくて真面目な顔をしていた。
春日本家で言われた事を思い返せば、離れちゃ駄目って言ってたから正解はそれのハズ。
『……守ってくれる人から離れない事?』
うーん、と唸った後に悟は首を振る。不正解だったようで。
「ちょっと惜しいかなー……正解は前線に出るな。婆さんはオマエの代わりに連れていかれたって事だから相手は間違いなくハルカを狙う。
オマエがせっせとミツバチのように溜め込んだ呪力は、僕らの界隈ではすぐに決められないくらいに手に余るレベルのエネルギーなんだよね。
そんな優秀なミツバチさんが目の前に現れたらあいつらは一直線に婆さんよりもオマエを狙う。普段は呪いをおびき寄せる為の囮だけれど、今回のオマエは……失礼だけれど、呪詛師の囮にもなってもらうよ」
『囮…』
ただ守られるだけよりはいい。囮でも充分役に立てるのならば。
真剣な顔の悟はふっ、と優しい笑みを浮かべた。
「……もちろん、オマエの旦那さんが降りかかる魔の手から守り切るつもりですけれど?」
ばちこんっ!とウインクを飛ばしたので、真剣さと笑顔の温度差が激しくってへらっと笑った。悟なりに私を連れて行くメリットもあった様で良かった。本当に足手まといになるのは嫌だし、囮でも良いや。私は私情ではあるけれど復讐に一発入れてやりたい、そんな考えだから。
『ありがと。頼りにしてる』
「ふふ…、まあね!僕は最強なんだからハルカにはじゃんじゃん頼って欲しいなあ」