第16章 覚醒のトリガー
にこ、と笑って悟の返事とした。
……本当は一発じゃ済まない。それっぽっちじゃ済ますことの出来ない憎悪が内面に渦巻いてる。あいつら…ボスや電撃を浴びせた無精髭の男の事は殺したいくらいに憎んでいるけれども。
じわじわと溢れそうな黒い感情を顔に出ないようにと私の内側でそれを制御しつつも、なんでもない普通の私を演じる。どうしてかな、なんだか私でも分かるんだ、自分がおかしいって事を。ここまで人を憎んだことがなくて、今にもなにかが溢れ出してしまいそうで私なのに私が怖かった。
「……。
ああ、そうだ龍太郎君。春日家の玄関入ってすぐの所に沖縄のお土産置いておいたから、婆さんやマリアと帰ってきたら皆で食べなよ!」
「ありがとうございます。どうでしたか?というか、ええと…新婚旅行だったんです?」
「いや、普通のデートだよー…ってか、籍は入れてても指輪まだだったからとっておきの愛を囁いてきたのさ!……──っ……、」
「……──っ、──…」
ふたりの賑やかなやりとりを聞きながら、車窓の外をぼんやりと眺める。変に呼吸が乱れないように、顔に憎悪が溢れないように。
とりあえず今の私には考える時間が欲しかった。
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ハルカとの旅行はとても楽しかった。教師と生徒でも呪術師同士というわけでもない、ただの男女での旅行。デートであるけれども新婚旅行と言われればそうとも言える。それくらいに濃密でふたりだけの時間を味わえた。
悪ノリ出来る友人同士みたいな、恋人としての愛情を育むような、これから家族となっていく為のまだふたりだけの時間を楽しむみたいな楽しい旅行。ハルカは良く笑って、時に怒って、僕にとろっとろに夢中になって、たくさん眠って……一時も彼女から目が離せなくて。夢中になって魚を追うキミを反射するガラス越しに僕はずっと眺めてた。
確かにイルカショーも楽しかったけれどさ。楽しむ大切な人ばかりが記憶に残っていて、水族館なのにハルカの事ばかりが記憶に残ってる。
……いい笑顔だったんだけれどな。
京都に着いて、悪い話を聞いてからずっとこの調子だ。
「ハルカー?」
『………ごめん、悟。今は…少し、考えさせて』