第16章 覚醒のトリガー
137.
春日家へと向かう一本道。ひたすらにタクシーが進んでいく。
すれ違う車があれば襲撃した関係者のはず。けれども一台もすれ違う事はなく。
『………』
別に祖母が心配って事じゃない。薄情者と思われるかもしれないけれどあまりにも関わらなすぎて、そして久しぶりに会ったとしてもリベルタのような、道具として孫の私を見ていたから。そんなに心配ではなかった。むしろ、監禁時に世話になったマリア、いやそう呼んだ事はない、むしろ聞き慣れた名前でいえばボスに付けられた名前がクリミアという名の女性(何やら訳合って春日家に住む事になったみたいだけれど)と、ちょっと襲われ掛けたけれどなんだかんだ世話になってる龍太郎のこのふたりの方が心配に感じてる。
タクシーは減速し、門の真ん前で横付けする車体。
「ドライバーさん、とりあえずこのまま待ってて貰えるかな!?」
「え、ええ…」
一時的にお金を渡してタクシーに門前で待機して貰い、悟と私は急いで門に駆けて行く。門は僅かに開いたまま、乱暴に開けそのまま走って玄関へ。靴を脱いでる時間はない、急ぎで靴を履いたままに室内へと上がり込む。視界にはいくつか砂利っぽいものが見えた、多分襲撃した人も土足で入り込んでる。
『襲ったやつ、まだ残ってるかな!?』
「いや、一般人すら周囲には居ない!むしろ、ただひとり龍太郎だけが取り残されてるみたいだ!」
悟はきょろきょろと周囲を見てその良すぎる眼で居場所を特定したらしく、私の手を引っ張っていった。
ダッダッダッダ…と硬い靴が古い木材を踏み鳴らし、私は悟に引っ張られて縁側を進む。
見えてくるのは飛び散る赤。
『あの、赤は……』
二度来てるからこそ、そんな赤は無かったものだって分かる。
赤の正体、それは縁側や障子と広範囲に飛び散る血痕、そして転がり落ちたであろう、男、龍太郎が庭の玉砂利の上に倒れている。