第15章 縛りの為の呪物
ご機嫌なサングラスの下の口元。龍太郎が出るのを待ちながらハミングしてる。
にぱっ!と口元が開いて相手が出たんだな、と確認した駅の外。並んで立ちながら行き交う外人さん達を眺めていた。悟は顔は良いから日本人だけじゃなく外人さんも振り向く。長身だし目立つって事もあるけれど…。
「もしもし?龍太郎君?あのね、僕とハルカ今京都に着いたんだけれどちょっと車出して貰えないかなーって……、」
そうだ、どうせ京都寄ったなら生八ツ橋買っていこう。おたべ、美味しかったなぁ、とろとろのチョコレートが入ってて。
京都もじっくりと観光したいな、なんて思いながらに通行人観察から悟を見上げた。
さっきまでにこにこしていた悟はそこには居ない。見上げた彼はとても険しい顔をしていた。
「……それ、本当?今は?婆さんとええと…クリミアって呼ばれてた、そう……マリア。ふたりとも?……、」
『……』
何かがあったみたいで、その険しい表情の悟から目が離せない。胸がざわざわと騒がしい。周囲がこんなにも人や車の走行音などで騒がしいのに集中しすぎて雑音が聴こえない。私達だけの世界に感じる。
「分かった、とりあえず僕達はタクシーで向かう!キミはどんな具合なんだい?……ハルカが行けばなんとかなるね?じゃあ待ってな、すぐだ、すぐ行くから」
タクシーが必要だと聞いた私は、タクシーを呼び止め、携帯をしまいながら乗り込む悟と一緒に乗り込んだ。
楽しかった雰囲気が崩れ去る音がどこからか聞こえるような気がする、ガラガラとこの3日間が失われていくような…。
『……何が、あったの?』
良くないことが起きている。それを確かめる為にタクシーの中、悟を見つめて確かめた。悟は苦虫を噛み潰したような表情で…。
「春日の本家が襲撃された。ハルカの婆さんとマリア…オマエが世話になってたクリミアだね、その子がマリアって言うんだけれどふたりが攫われた。襲撃時、龍太郎が怪我を負わされて本家で動けなくなってるらしい」
何か言おうとした口は開いたものの、言葉が出なくて私は静かに口を閉ざした。そうすることしか出来なくて、ただタクシーの車窓から流れる外の景色を見て目的地に着くその時を待つしか出来なくて……。
今の私に何が出来るんだろう?
その疑問と不安とただならぬ怒りでぎゅっと自身の服の端を握りしめた。