第3章 呪術を使いこなす事
13.
東京にやってきて、雰囲気のある敷地に入る。あちこちの建物が古風…いや、神社仏閣というべきか。
とある建物、廊下を歩きながら悟はこちらを見た。
「ここが僕の職場だよ。先に電話入れてあるからキミも僕の来客って事で入れる筈なんだけれど……ははっ、キミはまだ僕を警戒してるの?」
数歩下がって悟から警戒をしている私。
京都から東京までの移動中、時折駅弁や土産等で餌付けされて近付こうものなら犬や猫を愛でるようにワーッシャーシャーと撫でられてまた私が数歩引く、を繰り返していた。当人はムツゴロウさんのつもりらしい。
名前を敬称略で呼ぶ際に、うっかり"さん"付けしてしまいそうだから悟の名前に触れないように謎の努力をしないといけなくなってしまった。努力すべきは呪術なのにこっちで疲弊してどうするんだろう、私は。自然とため息が出るわ。
悟は警戒する私を見て随分と楽しそうではある。
「キミはさー、そうやって上着で口元までしっかり覆って防御してるつもりなの?ただ敬称略すれば良いだけじゃん、自然と言えてたのにもしかして本当は僕とキスしたいだけなんじゃない?」
誰がわざとしたがるかっ!という言葉を込めて、キッと斜め上のニヤケ顔を睨んだ。
『婆ちゃん家前のバス停の時、キスという器には収まらないヤツだった!なんでそう、私の反応を楽しむ為にからかうの!?』
「どう、どう、どう。落ち着いてー?誰に聞かれるか分からないよー?」
着ている服の襟までチャックのデザインだったのが幸いして、今はそれで口元がしっかり覆えている。不意打ちを出来るだけ抑えられるハズだ。
まだ朝からこの謎の罰ゲームは開始したばかり、油断が出来ない。ぼーっとしている時だったら"悟さん"と口から漏らしてしまいそうだ。
サングラスをした悟がようやく目的地である、呪術師を育成する学校、呪術高専へと着いた事で今日イチはしゃいでるのが目に見えている。
悟の斜め後ろから数歩下がりながら着いて行き、周りを確認してきたけれど、想像以上によくある学校って感じではない。完全に外から切り離された感じを受ける。
「あ、悠仁」
自動販売機の近くの空間に人影があった。
数名集まる中、悠仁と呼ばれた桃色寄りの赤毛の青年は振り返る。派手さを感じるけれども、悟に手を振る姿に素直さを感じた。子犬のしっぽの様に手を振っているなぁ。