第2章 視界から呪いへの鎹
携帯を取り出して悟の体で見えなくなってる、春日家までの一本道をチラ見して、誰も追っていないのを確認して時間を確認した。あと10分…、ここで待たないと行けない。
ずっと私の荷物を背負っている悟を見上げた。きっと重いだろうに。
『あと10分…、』
見上げた悟の口元が弧を描いたな、と確認した時。
「油断大敵、だね?」
あまりにも早すぎて回避することが頭に浮かばない。
片手に引き寄せられて、かぷっ、と獣のように。
獲物である私に牙は立てず、唇が唇を塞ぎ、更に追い打ちを掛けるように舌が口内を犯していく。目の前の空を見つめ続けちゃ目が潰れてしまいそうで自ら閉じた。
『やっ…!んぅ、む…っ!』
ほぼ密着した体の隙間から手で離そうにも、片腕がしっかりして私の抵抗を受け、今度はもう片手が私の後頭部を引き寄せる。
十分に私の口内を知り尽くした後は今度は私の舌を擦り寄るように撫でていく。
視覚を自ら断ったことが原因だ、深いキスのせいで触れる体温も、角度を変えられる際に聞こえるキスの音も、頭の中いっぱいに支配されていく。今更瞳を開けたら、その空から逃げる事が出来そうもない。
されるがままに、ちゅっ、ちゅく、と悟は私の口内をひたすらに愉しんでいった。
──ようやく開放されたのは始まってどれくらいか。
唇が離れてゆっくりと瞳を開ける。
目の前で、キスをする前のように弧を描いた悟。
ぽかんとして、なにか伝ってるな…と、手首で口の端からどちらとも言えない唾液を拭った。
だ、えきって事は…。
──時間差。
ぶわっ、と全身の血液が燃えたぎるようで、特に燃え上がるような顔を両手で隠してその場にしゃがみこんだ。
頭上で凄く楽しそうにケタケタ笑う声を聞きながら、背をばしばしと叩かれながら。ゆっくりと停車するバスのエンジン音と独特の排気ガスを吸い込んで私はゆでダコのままに立ち上がるしかなかった。