第15章 縛りの為の呪物
いつもはロックを掛けていない筈がこの時ばかりは私の行動を見越してロックを掛けた悟。ムカつく!と思いながらもその苛立ちもすぐに風に攫われていって。
立ち止まった白い砂浜の上で、ボールが膨らまし切る瞬間を待ちぼうけしながらに美しい海を眺めた。ひとりじめ、いやふたりじめな世界がとても贅沢な時間で、
プー、プー、と空気を押し込まれる音が止まり、空気挿入口を引っ込める音で悟を見ると、ん!と腹にボールを押し付ける悟。
『なぜに腹……?』
「お腹じゃないよ、よく見て」
むに、と空気で満たされたボールで胸を持ち上げるように下から押してくる悟は満面の笑みを浮かべていた。
「妖怪3つ乳おばけ」
『あ゙あん!?ビーチバレーの前にドッジボールの時間かな?』
「え、やだ、平和主義のプリティー妖精の悟君的に暴力反対なんだけど?」
ビーチボールで胸を持ち上げる動作をした悟の手からボールをもぎ取り、ブン!とボールを当てる。両手でガードして悟はボールを拾った。水を得た魚のように、追われるよりも追う側の悟はとても良い笑顔をしてるのがおっかない。
やっべ、と私は走り出した。
「ヘイヘイヘーイ!ハルカびびってる~」
『悟っ、よそう?ここは安全・安心ビーチバレーボールをしよう?』
「キミからドッジを提案したんだもんね~っ!おらっ!」
ぶんっ、と投げられた悟のボール。いくら投げても柔らかくて空気の入ったボールじゃ当たっても痛くない。振り返り手でぱしっ、と受け取って片手に持って追いかけた。追えば逃げる大の大人、本気の走りで前方を行く。
『汚い!流石悟汚い!そうやってガチ逃げすんの良くないと思うな~っ!』
全然詰められないという訳じゃないけれど間が開きすぎる事もなく。風を受け、上着が捲れて悟の背中が見える。背中の刀傷は武士の恥とは聞くけれど、ビーチボールだから痕着かないしなあ。ただのバレーボールならギリ……。
当ててやる、と走りにくい砂浜で悟を追っていると悟はちら、と振り返る。もちろん逃げながら。