第15章 縛りの為の呪物
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水族館にて。チケットをしまって周囲を見渡す。やっぱりここ目当ての人も多いし、何よりも土曜日という事もあって賑やかで。
ここに来るのは初めてじゃなくて随分昔に来たことはあった、けれども時間が押してたからって流れるように急ぎで見ていったって記憶がある。
しっかりと手を繋いでゆっくりと進んでいく。館内は薄暗いのに展示されてる水槽の明かりが幻想的。
……そんな水族館に朝から急がず、のんびりとやって来て、とても大きな水槽という単語に許容出来ないもはや一面の海…という展示物の様子を見て立ち止まった。
『ふわぁ……おっきいね~…』
「やだ、そういうのはベッドで言って?」
キュッと握られた手の主、悟を見上げれば少し恥ずかしそうな顔をしてらっしゃる。私は水槽についてのコメントを言ったんであってなぜその様に捉えた…?ん?
『変に捉えたな~?チンアナゴめ』
「せめてウツボって言って欲しいなっ!てか知ってるでしょうにー!このこの~!」
片手で私の腕をつんつんと突く悟に止めろ!と小さく揉めていると他のお客さんが近くを通ったのでさっと口元を隠す。同じく悟も口を隠していた。モロに言ってないとはいえ聞かれちゃ良くないもんね……。
目を合わせ、小さく笑い合ってから再び仰ぎ見る。巨体のジンベイザメがのんびりと泳ぎ、またウミガメもまるで空を飛んでるように頭上を優雅に泳いでいた。館内から見上げる水槽の中は煌めいていて様々な青を魅せてくれる。日中の海とかそういうんじゃなくて、幻想という言葉で表現するにぴったりというか。
『時間、忘れそうになる……』
立ち止まって鮮やかな魚の群れを目で追い、時に回遊する魚を眺めていれば自然と脚が止まっていて。どれくらい時が進んだのか分からないけれど、このままじっとしていた。
繋いだままの手の悟もきっと時を忘れるように水槽に見とれているのかもしれない。急かすこともなく水槽を見たままでもずっと体温を、存在を感じ続けてる。