第15章 縛りの為の呪物
『こ、これは熱い……っ!』
「まさかの伝説を生むのか、ハリボテエレジー!今日の運命の女神はハリボテにだけチュゥをするのか!?」
たった一匹だけの為のヤドカリの独壇場となったレースを見守る、成人済み(28歳&23歳)の私達。ピタ!と止まったヤドカリは顔を洗うハム太郎ばりの仕草をくしくしとしてくるりと半周し、コースを戻っていく。
『えっ…逆走~?』
「ジュゲム誰か呼んで~?ハルカ、ジュゲム知らない?」
…マリカワールドには居るけれどさー…、と返事している内にスタートラインすらも踏んで更なる砂地へ、コスモインザロストベルト…漂白された砂地へと立ち向かっていった勇者となっていくハリボテエレジー。
『「ハリボテーッ!」』
あああーっ!と拳をラオウが如く突き上げた悟はハリボテを片手に持ち上げる。
『な、何をするだーっ!?』
「こんなレース止めてやるよぉーっ!」
ぶんっ、と小さな影がくるりとまわり、穏やかな海にポチャン、と音を立てる。ハリボテは…海に還ったのだ…。
0.1秒位の僅かな黙祷、そしてやって来る賢者タイム。
『シラフではしゃぎすぎた…』
「僕は楽しかったけどね~」
……ヤドカリって海の生き物だもんな、と冷静に考え、謎のテンションを恥じる。私何してんだろ、と。他二匹も自由に砂浜を歩き回って私達から随分と離れていて、悟は私に手を差し出した。
「はい、全員失格っていう異例のレースはこの辺にして。
水族館、行くでしょ?ふらっと行ってのんびり探索してお昼をそこら辺で食べて……、戻ったら海で泳ごうか?」
差し出された悟の手のひらを見るとおそろいの指輪が眩しく存在を主張してる。そこに右手を重ねた。
暑いし、体温も熱い。けれどもこの手は重ねて深く交わる様に絡め取られて、しっかりと握られて。
見上げた眩しい微笑みをした悟に返事をした。
『……うんっ!そうする!』
「うん、朝から元気なようで何よりです。やっぱりこの元気といったら五条悟、五条悟といったら元気…の奥さんも元気で居て欲しいもんね?」
『これ以上体温上げるような事言わないでくれません?』
慣れないからってからかうように奥さんって言ってくる悟。にやにやと意地悪な笑みで「やだ!」と笑って繋いだ手は恋人繋ぎであるのに子供のように前後に揺らす。
手を引かれるままに私達は散歩からホテルへと向かっていった。