第2章 視界から呪いへの鎹
「あっはっはっは!ヒー、あそこはクソババアくらい言うかと思ったのに、バァーバて!」
『そこ、いつまでもうるさい!』
後ろは見なかった事にしよう、うん捕まらなければ良い、捕まらなければ。
笑いながら走る男は私よりも先をどんどん走っていく。こいつはホラー映画で他人を蹴落として行くタイプだなっ!と思いながら、必死に走った。
随分と余裕そうな顔をした、悟はこちらをちらりと見ながら、変わらずに愉快そうな口元をして私の様子を伺ってる。
「捕まったらキミは終わりだなー、僕は走り抜けられるけれど置いてっても良い?」
『良くないっ!非常に良くない!』
「置いてこ」
『はあーーっ!?』
薄情過ぎる、スピードが上がってより私から離れていく五条悟という男。
後ろは……振り向きたくない。気のせいか息遣いが結構近くから聴こえてくるんですけれど…っ!
捕まっていないけれど、捕まったもしもを想像した。きっと家系図を見る限り散々な事になる。年子作らされる。私が拒絶すれば縛ってでも仕込まれそう。そういった映像には触れていないから想像での事だけれどきっと分娩台に拘束されて……かもしれない。
ちょっと涙が出てきた。
『ヴァーッ、待って待って、置いてかないで悟さん、慈悲の心が僅かでもありましたら……、
「あっ」』
……私の馬鹿、敵を増やしてどうするんだろう。
悟からも離れる様に少し斜めに走る。当然後ろからの威圧感もある。
前方の男は"計画通り"とでも言いそうな、腹の立つくらいに整った笑顔で速度を落としながら、サングラスをしまい近付いてくる。
「ちょっと抱えるね、暴れないように」
『…ぎゃっ、』
私の口から漏れ出したのは色気とは無縁の、カエルが潰されたような悲鳴。それを聞いてンフフ、と笑われてしまった。その余裕そうな悟の左腕が私の背後から抱える。私は走り疲れか、緊張か、恐怖か……心臓はバクバクと忙しない。
抱えられたその手と、もう一方の手の指が絡むと、悟は立ち止まってしまった。
『…んで止まっ…!後ろ!後ろぉ!うし、ろ……はぁ?』
ぜぇぜぇ、と息を荒げて後ろを振り向くも居ない。
前を見ると道路。近くにバス停。頭の中がクエスチョンマークでいっぱいだ。何が起こったのか…瞬間移動…?