第15章 縛りの為の呪物
スンッ…と怒られたポメラニアンみたいな顔をする悟。
そこはいつもの悟かよ、と思う反面この流れには察しが着いて、少し間をおき、ひとつ私は頷いた。
緊張してるのは私だけじゃない。言い出す悟の方がずっとずっと緊張してる。繋いでた手がそっと離されると手の中が涼しい、生ぬるい風がどちらとも言えない手汗を風が乾かしてくる。
気分を切り替えた悟は少し頬を染め、夜の浜辺でキリッ、とした瞳で私をじっと見ていた。
「──オマエの全てが欲しい、ハルカの全てを俺に頂戴。
返事は要らないよ。結婚しよう、とか言う前にとっくに籍入れてるからハルカのこれからの人生全てを貰ったも同然なんだけど」
流れるように私の手に触れて返事も出さぬままにすっ…、とはめ込まれるもの。
乱暴過ぎると思う言葉に笑っているのに、悲しくもないのに涙が出た。胸の奥、感情を溜め込むグラスがあるのだとしたら一気に悟によって注がれたもので溢れるような、熱いほどの感情。
『なにそれ、返事くらい、させてってば……ははっ、』
「……どうせ、ハルカから返事貰ったって僕を肯定するでしょ。オマエはさ、僕の事好き過ぎるんだから」
『そういう所さー…もう。悟、自分に自信有りすぎじゃん……。確かに、好き過ぎるのは間違ってないよ』
少しキツイくらいに悟の胸に飛び込んでぎゅっと抱きつく。私の背に回された手も悟に押し付けるようにぎゅっと抱きしめている。
暖かい涙が悟側にぎゅっと押し付けられた胸板で、服の生地に吸われていった。
確かに返事を待たれても意味はない。その自信の通り悟に身を捧げる事に躊躇いなんてないし、否定はしない。
……でも。でもさ?
あまりにも自信過剰で欲張り過ぎるんじゃないのかなってくらいの言葉。ダメ押しはしないけれどね?
『全部は欲張りすぎでしょうに…』