第14章 鮮やかな日々よ
『面倒くさいなぁ(しょうがないなあ、飲んじゃったけど)ほら…乾杯』
「本音の方が出てるっ!」
カァン、とカウンター上を滑らせて悟のグラスに当てる。口を付けていない、なみなみとグラスを満たすジンジャエールの炭酸が、瞬間的に騒がしくなって静まっていく。悟は黙って口をちょいと尖らせてる。いつも騒がしい悟の休業中(沈黙)の中で私はギムレットを注文した。
カン、とつまみをフォークで刺しながら硝子はこちらを見て小さく笑う。
「まあこの無駄に騒がしい五条の方が日常的だなあ。ハルカが居ない間ときたらろくに寝ず食べず携帯握りしめてずっと殺気立ってて」
「ええ、生徒や補助監督生に怯えられてましたね。私に泣きつかれたので夏油さんに相談した所、徐々にまともになってきたというか」
「ちょっとそういうのは言わないでくれる?」
悟がラミネートされたメニューをスタッフに指さして注文する横で、やってきたギムレットに口を着ける。
……そんなに余裕なくなるくらいに、探してくれてたんだ、悟は。じっと見ると少し赤くなった頬が見える。暖色の店内の明かりで薄っすらと見えるサングラスの奥がちょっぴり睨んだ。それは照れ隠しの僅かな怒り。
「……何か言いたいわけ?」
『ん、後で言う、部屋に帰ったらね』
……本気で探してくれてありがとうって。
七海の追加注文が来たのを見て、私は本題に入る。特に七海が体を張っていたから言葉だけじゃ済まないって思っていたから。
『その、本部に入り込む時に伊地知さんと七海さんは特に体張ってたじゃないですか。私、それすらも全然気が付かなかったし多分リベルタに持ち込んだ治療費とかえげつない金額だって聞いてるし……』
失った部分によって金額を変えましょう、などとボスの話を耳に挟んでいた。危険を冒してまで本部に接触しに来てたのに私は何も分からないままで、龍太郎が七海と情報のやり取りをしたらしいけれど。それにしても気が付かないのは失礼だろ……。
しょんぼりとした心に突き刺すジンとライムは気分はすっきりとはさせてくれない。