第14章 鮮やかな日々よ
思い出したのは以前、父と悟は腕相撲をしたと言っていた事。
良いよね?と悟を見るとサムズアップして頷いている。私はその場から立ち上がった、ここに悟が座って目の前の兄と腕相撲をする為に。
座り直した悟と兄が手を握り合う。その手を私は抑えていた。
大丈夫、実力差はきっとそんなに無い。ただ悟は呪力での肉体強化は多分する。
それを私は知っていて、更に兄に精神的攻撃を用意している。それは勝負の時に仕掛けるつもりで。
「お義兄さん宜しくー!」
「そう呼ぶんじゃねえ……っ」
悟はにこにこしてるのに今にも食いつきそうなドーベルマン。
そんな悟は試合直前で私を見上げる。
「ハルカは僕の事応援してくれる感じ?」
『ん?いや、お腹減ったしお寿司食べるならふたりがやってるうちに味噌汁でも作ってようかなーって』
悟はすごい不服そうな顔で私を見て兄は今日一番の喜びの笑みを浮かべてる。これだけで勝ったと言ってるような表情。
まだ言ってないだけで実際に今の私はみたらいハルカではなく五条ハルカになってるという事。その爆弾を投げてしまえばぶっちゃけ力の差とか関係なくなるんだけれどね。
手を乗せたまま、声を掛ける前にまあ…一応旦那さんという、事ですし?一声は掛けとくけど。
「ほらみろ!妹は兄である俺が勝つんだと信じてんだよ!数日数週間数ヶ月程度一緒に居た程度じゃあ信頼も得られねえんだ!」
『何言ってんの、悟が勝つに決まってんじゃん。それに悟については信用してるし信頼してるけれど尊敬はしてないよ?』
クーン…と鳴き声を発した悟。
手を乗せたままに笑っておく。
『……けど、兄貴や父ちゃんよりずっと強いんだからね?と言う事で悟は勝ってね』
勝たせるんだけれど、と心の中で呟きつつ。
表情が入れ替わるように、兄は凄い顔をして悟は本日一番の嬉しそうな顔で笑っている。
「ふふん、もちろん僕が勝たせて頂きますよ?だって僕はハルカの旦那さんだしね?」
あん?とドーベルマン化した兄やひと吠えした所でタイミングを見計らって。
『そもそも勝つも負けるも私をやらんっていうけど、何日か前にとっっっくに私達入籍してるから…レディーファイッ!』
開始の合図と共に兄の手の甲が机に押し付けられる光景と男ふたりの雄叫びがみたらい家に響き渡った。