第2章 視界から呪いへの鎹
向かい合って初めに言葉を掛けたのは祖母。
「東京への用が済んだら戻ってきなさい。私は龍太郎と共にハルカの帰りを待ってますよ」
なんとしてもここに留まらせるつもりが分かる。龍太郎の部分を強めに言ってる。多分、風呂場で致した、きっと孫の腹には子孫が宿されてる…そうやって内心ニヤニヤして待ってるんだろうけれど、未遂に終わっているのは多分知らない。普通に生理来るわ。
血の繋がる一族なのは分かる。けれども今の私はここに縛られて言いなりの人生を送る…穏やかで慎ましやかな、反抗のないお嬢様ではない。片親がオラオラ系、兄弟も腕っぷしの良い兄貴。そんな私はこんな静かには暮らせそうもない。
私は帰りを待つという祖母の言葉に噛み付いた。向ける笑顔なんて持ち合わせていない。
『……私には、父が居ます。おばあちゃん』
厳しい表情で私に、"許婚がここに居るからここで道具となれ"とも言える言葉に返した。更に私は続けていく。
『死んだ母も家に待つ父も…私をとっても大切に育ててくれました。
それは春日の一族としてでも、血族の繁栄の為でもなく、みたらいハルカとしての愛情を注いでの事。それを受けて私は育ってきた。
だから母は私から呪いを見えない様にして、戦う事がら遠ざけたんだって、今の私には分かる…──』
ちらりと私の荷物を軽く持ってくれている悟の、その荷物をチラ見する。
随分と軽そうに見えるけれど実際は本だの書類だのがしこたま入っているので重い。書庫となった一室、私が持とうとしている所を、ひょいと持ち上げていた悟は"僕が持つよ"と助け舟を出してくれていた。ポーカーフェイスというか、細身に見えて結構筋力があるのか。凄く有り難い…今からやる事にそれは大変私に不利になる荷物だったから。
視線を祖母へと戻す。まだ厳しい顔つき。春日の生き残りはここに居る私と祖母だけだから。
返された私の言葉に祖母も噛みつき返してくる。
「だから呪いが見えても逃げる道を選ぶとお前は言うのか?
一族は余所者がなろうとしてなるものではない、生まれながらにして背負うものだというのに私の娘…、お前の母の居ないただの家に帰ると?」
ただの家。違う。それは私の生まれ育った家。帰る家。家族の待つ家だ。ムッとするわ、この婆さんは。