第14章 鮮やかな日々よ
「ハルカ、ハルカっハルカ!……クソ、自宅療養って言ったのに!あいつっ!
……もしもし傑!?部屋からハルカ居なくなった!靴はあるしトイレとかに居るわけじゃねえ!」
『……やべ』
……あれ、大事になってきてない?
ぎゅっと枕を引き寄せる力も強くなる。少し眠たかった体もどきどきと緊張してきた。
ドタドタという音が止まり、こっちに近付いてくる。
「あ、ちょっと待て傑、こっちにハルカの呪力が……、」
携帯を耳に当て、ベッドを見下ろすアイマスクの悟。目は見えずとも視線が合ってる。気がする。
携帯片手の悟はゆっくりと片手を口元に持っていきうっ、うっ…と嗚咽を漏らしだす。
「ごめん傑、早とちりだった、俺の部屋側に居たわ……ぐずっ、今ものすごい尊い事になってる……ううっ、あれ?僕ったら天使を嫁に貰ったんだっけ?これ現実?宗教画?ミュシャ?僕のマイスイートハートハルカちゃんが僕の枕抱えてベッドに横たえてんの……ぐずん。やばすぎ、めちゃくちゃに抱き潰したいんだけど…
あ、切られた」
そりゃあ相手も通話切るわな。きゅっ、とクッションを抱えたままに悟をじっと見上げる。騒動も終わり、再び落ち着いてきた。
悟は携帯をポケットにしまうと、にこにことしながらベッドに手を着く。ギシッ、と軋ませ、そのままよじよじと這うように枕を抱える私の前で寝そべった。枕を挟んだ川の字のように。
さっきまで嗚咽を漏らしてたのはどこに、今はにこにこと嬉しそうな悟は片手でアイマスクを首まで下げる。目を細めてじっと私を見ている彼。
「僕の部屋に来てるなんて本当に珍しいなぁ、また居なくなったかとヒヤヒヤしたんだけれど?急にこっちの部屋でのんびりしてどうしたの?」
直球過ぎる疑問。そりゃそう思うよね。
ぐっ、と悟の香りの染み付く枕代わりのクッションを顔に引き寄せた。
『まさかそんなに大事になりかけるとは思わないじゃん…。
あっ、たまたまね私なんで悟が私の部屋に来るのかなって考えてる時に悟の部屋に来たんだけれどさ、』
うんうん、と相槌をする悟。目の前で抱きしめた枕を私は撫でた。