第14章 鮮やかな日々よ
120.裏
「ふー……ハルカ、先上がってて」
『急にどうしたの?』
私の首筋に顔を埋めたままに悟の熱い吐息が掛かる。泣いてるとか……じゃない。何か少し悟の様子がおかしくて。
胸元で抱きしめられた腕から開放されて、私は湯船で体勢を変える。悟の方を向き、彼の顔を覗き込むとその青と目が合う。
彼は少し眉間にシワを寄せながら笑っていた。いや、それどういう感情なんだよ…。その謎の表情をした悟が気になってじっと見つめていると、ぱちゃ、と温めの湯船から手を出して私の腕を軽く掴む。
「ほら、先上がってなって。いつまでも入ってたらのぼせて倒れるよ?」
『えー、う…うん…?』
なにか急かしてるな。
少し上がり掛けた体をもう一度ちゃぷ、と浸からせ、目の前の悟を見ていればなんだか苦しそうでもある。もしかして体調が悪い、とか…。
理由を何故話さないのかと悩もうとする私に衝撃的な理由を話し始める男。
「僕、ベーションしてから出るからさー」
『べー…しょん……(とは?)』
どこかで聞いたな、その響き。
ほんわほんわと脳裏に自分の親父が小走りにうー、とか言いながら更に繰り返しぶつぶつ独り言を呟き、トイレに駆け込む姿を思い出してる。そのべーしょんだったら風呂じゃなくてトイレだろ、じゃあ違うか。
そんな考えが伝わったのか、悟はやや苦笑いでぷるぷると首を振った。
「……ションベンじゃないよ?」
『考え読まないでよ…』
「顔に出てた、分かりやすいんだよハルカは」
そう言って悟は風呂の縁に手を掛け、ピンクの湯の中でよいしょ、と立ち上がろうとしていた。
「僕が言いたいのはさ~……マスターベーションの事ね。つまりは勃起しちゃったから抜いておこうかなって思ってたんだけれど……この際だしハルカ、」
湯船に浸かる私の隣で悟は立ち上がると脚の間からグンッ、と上向きになったモノが目立つ。入浴剤の濁りで見えなかったその悩んでた理由の全貌。顔や胸や腕といった肌よりも少し色の濃く主張するのはそこに血液が集中しているから。
怒っているようなビキビキとした血管の走り方までよく見える、それくらいに目の前にあった男性器。
そこから顔を上げて悟を見上げる。少し辛そうな顔をしていて。
「そういえばハルカ、オマエ前に精液舐めれたろ?フェラしてよ」