第14章 鮮やかな日々よ
119.
ぐつっ…ぐつっ……コポポ、
"夕食は何にする?なんでも言ってごらん、君の大好きな旦那さんが買ってきてあげるよ"
……と携帯に悟からのメッセージを受けとり、私はすき焼きをリクエストした。
本当にこれ現実?と思うほどに夢見心地。昨日までは私、道具とか奴隷のような扱いだったのに。めちゃくちゃ好物というわけじゃないし寒いわけでもない季節。けれどなんとなく同じ鍋をつつきたくて。
"おk!ご飯炊いておいて!冷蔵庫にすき焼きに使う食材なんか残ってる?"という返事に、冷蔵庫を開けて確認しながら"豆腐と長ねぎ以外全部、すき焼きのたれ含めて!宜しく"と返事すれば悲しそうなスタンプが送られてきた。
それで卵はあるという事を伝え忘れて買ってきちゃったのだけれど、卵は常に使うもの。もし余計に買ったとしてもあるのは嬉しい。
自由のある状態でのんびりすごしながら待てば帰ってくる悟。
出迎えて、使わない食材を冷蔵庫にしまってすき焼きの準備を始めた。カセットコンロをテーブルに置き、ある程度煮立たせた鍋を鍋つかみで持って、運んだ。
「僕、すき焼き好きよ~?といっても食べるの自体久しぶりなんだけど。ていうか、オマエと一緒に食べるの初めてじゃない?」
『ん、初めてだね。寒い時期に食べるなら分かるけれどさ。こういう時期だしねー…』
秋でも冬でもない、暖かな…むしろ暑い時期なんだけれど。暑いからやだ、とか言われるかな?と携帯でのやり取りで想像していたけれど拒否される事はなく。
まあ……暑いのは仕方ない事なので、窓を開けて換気をしながらにすき焼きをしてる。
さて、随分と食材も煮込まれてきた事だし。悟がパキッ、と割り箸を割ったのを見て私も同じく割り箸を手にとって割る。
深めの取皿に卵を解き準備万端、箸を灼熱の鍋に向けた。
「はい、スタート」
え、ええ…今から始めるの…?と思いつつ鍋の準備をしている時の"ごっこ遊び"に付き合うしかない、とちょっとテンションを作る。