第14章 鮮やかな日々よ
久しぶりの騒音は耳には少しきつくて。
ぬるまっこくてじっとりと湿気を纏う風。
通りすがりの女性の香水の匂い、人が行き交う際に引き連れてきたらしい、近くの店舗の美味しそうな肉を焼いた香り。
マフラー音が異常な車が通ればうっ、と来るような排気ガスの匂い。そして久方振りの空の下。
『……いいや、狭くなんて無い…やっぱり世界って広いんだね、今まで居た場所がとても狭いんだって良く分かるよ』
ただの日常に戻って来たというのに凄く感動した。自由……。
今日だけで何度目かの涙が流れて、空いた手で拭う。私の体にはぶかぶか過ぎる悟のシャツに涙が吸われていった。
幼い子供のように無邪気に駆け回りたい気持ちもあるけれどそんな元気は今の体にはなくて。
朝から食べるものを与えられず(タイミング的に食べ損ねて)、いつもより多く痛めつけられてずっとふらふらな身体。自由になれた事は凄く嬉しいけれど正直身体が疲れ切っていた。悟と繋がる手にすがって立っていられる。
「何いってんの、そりゃあ世界は広いよ?といってもハルカは久しぶりだからなぁ……三週間ぶりの外なんだろ?」
『さ……三週間…?』
三週間。もっと居た様な気もするし、あの長い時間がそんなに短かったなんて。
悟の顔を見上げれば、きょとんとしてしばらくして私に笑いかける。
「……うん、三週間。なんだ時間の感覚無かった?
てか、オマエ。顔色凄く悪いね。高専帰ったら硝子の所に速攻連行してくから」
さあ、車に乗ってなよ、と徐行して幅寄せする黒塗りの車。ドアを開けた悟はほら、と私を優しく押して乗せた。
ドアを開けたままに私を覗き込む悟は優しく笑っている。