第14章 鮮やかな日々よ
悟は私の首筋に頬を何度も擦り寄せ、少し呻くような声を出している。大きく息を吸って、鼻を啜ってる。
背に回した手でそっと、何度も撫でていたあの感覚を思い出そうとその白髪の頭に手を伸ばした。
暖かくてふわふわして、さらっさらの髪。後ろがちょっとザリザリしてて……。
「……ぅ…っ、」
『悟、泣いてるの…?』
悟達が来る前の私は泣いていた。彼に助けを求めた瞬間にも涙していた。それに似た彼の呼吸を感じて聞いている。
呻くような僅かな嗚咽。びく、と跳ねるような動き。
「…っ俺が泣いてる訳ないだろっ、だいたい泣いてたのはオマエだろ、人の事言えんのかよ…っ、駆けつけた時にぐずって目の前でボロボロ泣いて、」
『ふーん…?泣いてないんだ?じゃあ確認の為に顔見せてよ』
「やだ。絶っ対に見せねえ」
……声からしてバレバレの嘘。思いっきり泣いてるじゃんよ、と呆れながらに私は気が緩み、少しだけ声を出して笑って。
私も安心と様々なものからの開放で再び視界が潤む。
悟の肩に顔をうずめながら私も引き続き泣いた。
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どれくらいこうしてたのか時間なんて気にしてなかった。
もぞ、と悟が動いて私がうずめていた顔を上げた時だった。同じく顔を上げた悟。表情は悪戯っぽく笑っているけれども目元が赤く、瞳がまだ少し潤んでいた。
「ククッ……ハルカ、すっげー泣いたっしょ、ウケる。目元赤くてバレバレなんだけど?」
『……うっせ。そういう悟はどうなの、えーっと天才最強の?グッドルッキングガイの?五条悟君が目元赤くなってますけど?』
「なんで疑問形なんだよ。天才最強でグッドルッキングガイだろ。
ふふーん!僕にはアイマスクがあるもんねー!ピブー!」
『きーっ!ピブー、まで言った!』
私から離れて両手で首元のアイマスクを引っ張り、にっこにこで泣き顔を晒さない防衛策を披露する悟。おひとり様専用かつ悟のみに許されるアイテム。私が着けると何も見えず、着用時、もれなく悟からのキスをされるアイテム。
けどただ見せびらかしただけで悟は別にアイマスクをすること無く、ばいん、と指から離れて首元に返っていく。
自身の手を見て嫌そうな顔をしてる。私の服が血で染まってるから手にもその血が付いてる。