第14章 鮮やかな日々よ
116.
そっと悟はアイマスクを下げた。今まで私の中で日々喪われかけていたおぼろげなものが鮮明になる、ようやくやってきた答え合わせの時間。
「やっと……やっと会えたね、ハルカ」
そう、五条悟という男はこういう人だった。
でも、いつも無邪気だったはずの悟は少しだけ泣きそうにも見えて。檻に寄った私はじっと悟を見上げた。
『悟、』
「……うん」
ただ私の目をじっと見つめ返す悟は少し前のピリピリとした雰囲気は無くなって穏やかに笑ってる。私の腹から刺さったまま、弛んで檻の外の置き去りにされている機械に繋がれたワイヤーに気を遣ってくれている。
無理に引っ張ったら死ぬって事。それを彼は知っている。
鉄格子に私は両手を上げて触れた。
その私の手に悟は触れる、優しい温もりに涙が出てきて右頬へひとつ、遅れて左にもひとつ溢れていった。
『悟……"助けて"』
フフッ、と笑った悟は私に触れた手で、親指で数度撫でて「もちろん」と言うと、その瞬間には私の両手をずっと拘束し続けた物がブチブチブチッ…!と千切れていって両手があっという間に自由になった。彼の術式に拘束具が先に悲鳴を上げたみたいで久しぶりの軽さを思い出した。
「…他ならぬキミからのお願いだ、絶対にここから僕が出してあげる。だって僕は最強だからね」
悟はガシャン!と鉄格子を掴み、その鋼鉄を床に刺さる下から天井までを見上げて睨む。
「触れた術師の呪力を非術師くらいになるまで吸い続けてるね、ワイヤーも鉄格子も。どっかで上手な調整師でもいるのかな…。
道理で暴れん坊なハルカが出れないワケだよ……」
ひと目見てそこまでお見通しなのが自他共に認める程の天才か。今それを披露しとる場合か!と文句も言いたくなる。
でも助けられる側が強く言えないよな、流石に。
じーっと目で訴えていると鉄格子の隙間から手を伸ばし、笑顔で頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「かなり厄介なもので閉じ込められてたねー、オマエ。でもそれもこの瞬間までな?
ハルカ、危ないから可能な限り右に寄ってー、巻き込まれるよ」
『う、うん…?』