• テキストサイズ

【呪術廻戦】白銀の鎹【五条悟】

第13章 磨りガラスの想い出


最後に笑ったのっていつだろう。
いつも悟が居たから、ずっと楽しくて頬が緩んでいたような気がする。
急に会えなくなってしまったから、記憶はおぼろげで都合の良い記憶はアイマスクやサングラスで彼の多くの表情を隠していく。素顔ってどんな顔だかもう知る機会は失われつつある。
結局、助かる見込みなんて無いんじゃないのかな……。

『さとる、』

悟、悟って毎日呼んでた名前。
五条悟。そう言えば出会った時からさん付けしてたっけ。苗字で呼ぶ機会はほとんど無くて、呼ぶ機会が増えたのは私が生徒になってからだった。

助けを求めたら、来てくれるのかな、なんて。
諦めかけてる今、ただ顔もほとんどを忘れかけてる彼に縋った。神に願うよりも、いつだってピンチの時に駆けつけてくれる。そんな人だから。
だから、悟に見捨てられた時が終わりの時。

『──……たす、けて、悟…』

ただ誰も居ない部屋で自分の耳だけに届く言葉だった。
ぐず、と鼻を啜る。
……知ってるよ、ここには悟が居ないって事くらい。

三角座りのままに、膝に顔を埋めて泣いた。膝と顎の間に挟まれたワイヤーがその二箇所と腹部をつっぱらせる。コレくらいじゃお腹の中は傷付かない、けれどもしゃくりあげて泣けばその度にきゅうっ…と引きつって痛む。痛みのせいで余計に泣いた。

悟に会いたい。
確か、絶対に助けに行く、だなんて言ってたけれど。こんな薄暗い檻の中でただ布団が敷かれただけの牢獄。さっきの調教で衝撃によって痙攣した身体、ワイヤーとの摩擦で切れた肉、溢れる血液、血溜まりと鉄臭い空間。
手を拘束され、ワイヤーで腹部を貫かれた私のか細い声なんて届かない。

現実の地獄さに涙と嗚咽が止まらなくなる中、ドタドタと駆け寄ってくるいくつもの靴の音。落ち着きがないからボスやクリミアじゃない……忙しくで他の構成員が呼びに来たのかも。
予定外のお客さんでも来たんだろうか、とゆっくりと顔を上げた。そのままふらふらと立ち上がって、ワイヤーが繋がれた先の鉄格子の外を見ながら、泣いて余計に傷が広がってしまった腹部を治療した
……服はワイヤーを通した箇所を中心に腹部全体が真っ赤に染まっている。

タッタッタ、と複数の靴の音が更に近付きここから見える鉄格子のフレームに入ったのはまさかの人達。
/ 2273ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp