第13章 磨りガラスの想い出
「お前の堅ーい意志にはボスも感心してるけれどなァ、いい加減朝の問答も飽きたってよ。だから俺に許可をしてくれたんだ、痛みで支配するって事をよォ~?」
フ、ハハハハ…!と肩を上下させて笑う男。
鉄格子をガシ、と片手が掴みその間からじーっと私をニヤケた顔で舐めるように見ている。
「しかしハルカ、"ラブ"だなんてボスに良い名前貰ったなァー…お前、"ラブ"って愛だとかそういう意味に捉えてんだろ?」
『お客様から怪我を吸い取って溜めた呪力を吸い取れるからそういう愛称でも付けたんじゃないの?』
ふん、と鼻で笑った、この男は本当に嫌い。
エヘクトルじゃなくて、こいつが殺されてたら私はトラウマにもならなかった。むしろ、気分的にすっきりしていただろうに。
「は、ははははっ…!おめでたいね~!ラブっつってもエル・オー・ブイ・イーのラブじゃねえんだわ。
違うんだよ、意味が。お前に付けられた"ラブ"って意味はな、"奴隷"という意味を持つ名称だ。春日の一族ってのはよ、昔っから身代わりの銀糸を持つ一族だ。奴隷に相応しい存在だよな、お前ら春日はよお?
でも、その奴隷が"縛り"をしねえ。そいつは変だ。
奴隷は奴隷らしくご主人様に従わないとな…?」
鉄格子の先で5本の弛んだワイヤーを片手に一纏めで掴まれる。そこから取り外されていない、緩められたワイヤーが一度上下にうねり、青白い光が薄暗い部屋を瞬時に明るくした。
バツッ、バッ、ビビビビ……ッ!
『うぐ、あっ……ッ!ああああっーー!』
普段の機械よりも強い威力が腹部目掛けて入り込んできた。
治しては流し込む、治しては流し込む、治しては…──。
「グロム様、そろそろおやめ下さい」
「ああん?ボスの人形の分際で俺に意見かァ?クリミア?」
立って居られない、フラフラする。
ドッ!と膝から崩れ落ち、そのまま私は座り込んだ。このまま床に倒れても良いけれど繋がったままのワイヤーもあってどうせ痛みですぐ起きるはめになる。
見上げた先、部屋の外ではこちらを見るふたりの目。
しょうがない、という表情で肩をすかす無精髭の男。
「仕方ねえ、一時休憩だ。クリミア、ワイヤーはそのままで良い、繋げっぱなしにしとけ。
ちょっと休憩させて、引き続き調教しに来てやる。充分休んどけよ?"ラブ"」