第13章 磨りガラスの想い出
115.
部屋はいつだって適温であるはずなのにカタカタと震える体。
──恐怖。
あの光景が脳裏に焼き付いている。
あの男は、死んでは蘇るを繰り返し最終的には殺された、特に関わりのなかった組織の人間だった。
別に生き死になんて…と思ってたただのリベルタの構成員、けれども数秒前まで生きていた人間の体温。エヘクトルという名前を貰った男、どんな呪術を使うかとか人物か、よく知らない人間であり、別に直接的な関わりは覚えていないほど。
なのにボスの制裁で確実に私の精神をめちゃめちゃにしてきていた死に様。
呪いが祓われる光景にはなんとも思わなくても、同じ人間が死ぬのは精神を蝕むものがあった。
ぎゅっと服を握りしめて初めての殺人への"恐怖"を堪える。
カツ、カツ、カツ、カツ……
聞こえてくる足音はこちらへと近付いて来ている。やってきたのはボスとクリミアと無精髭の男。
「では、本日もいつもの質問を致しましょう、"ラブ"」
『……断る、縛りなんてしない』
今朝の"縛り"を要求するボスはいつもと変わりない様子だった。
殺人者。楽しんで人を躊躇うこと無く斬り殺した男。何を考えているのかが分からないからこそ怖いけれども、それでもただ意地を張って私は縛りを断った。
ただこの意地をいつまで保つか自分でも分からないけれど……。
断ればボスはいつもと同じ様に少し悲しそうな表情をして、いつもの様にクリミアに機械にワイヤーを繋がせて、電気ショックでバリバリと仕置きをしていく。
ただ今日はいつもと違った。
ボスが無精髭に一言告げて、ボスだけが部屋の前から靴音を鳴らして去っていった、という事。
"決して殺さぬように。念の為クリミアをここにつけます"
遠ざかるボスの存在、部屋の前で鉄格子越しにニヤァ……、と気持ち悪い、嫌な笑みを浮かべる男。そんなモノを見せられてこっちの気分が良くなる事はない。
『まだ、何か…?』
電気ショックによる負傷は治しても、痺れる感覚がまだ残ってる気がする。ピリピリとくすぐったい様な、痒いような。腹部から繋がれたままのワイヤーからは新しい電気が送り込まれてる訳じゃないのに。
確認の為に腹部に手を当てたいけれども拘束具でそんな自由も私には無く。