第13章 磨りガラスの想い出
膝を着いて立っていよう、というバランスを司令する頭はもう無く、私側にドッ、と倒れ込んできた肉体。
『……ひっ、』
思わず手を離してドタドタと背後に後ずさりした。切断部分を私側に向けて倒れた体。
綺麗に切断された場所を見てしまった。脊髄や喉、太い血管……その太い血管からドク、ドク…とワインを横倒しにしたように傷口から脈打って血溜まりが作られていく。
司令も血も無く、勢いは消えていってる……。
「みたらいハルカ、実験を続けなさい」
『……っ、』
その声色は怒っているんじゃない。"どうしてやらないの?"とまでの爽やかに背を押すような声色。そのサイコパスさがより一層恐ろしくて。
ぶるぶると震える両手で肩…いや背に触れる指先。切り口から首がミチミチと言い出すもそれは僅かな肉が再生したのであって頭部が生える、なんて事はなかった。
その結果を知ったボスは、首のない胴体の血溜まりを作った切り口に拾ってきた頭部を充てがう。ぬちっ、と嫌な音を立てて傷口に蓋をする頭部、いや、首。
言われる前にと私は同じく背に触れるも、もう変化は無く。
「なるほど!重要臓器が切り離された場合は僅かな時間では回復が出来るという事ですね。なら死者の蘇生は無理……と。そこは残念ではありますが、面白い結果をまた知ることが出来ました!死んだエヘクトルも最期にこの結果を知れたら良いのですが、それは叶いませんねえ。ラブもご協力、ありがとうございました。
皆さんも被検体になりたくないのでしたら真面目に活動をお願い致しますね、どうか"真面目に"!」
そう言ってボスは笑いながらこの冷めきった部屋から去っていった。