第13章 磨りガラスの想い出
カツカツカツ、コッ…コツ、コッ……。
その足取りは前列を通り、奥で折り返して二列目の整列している構成員の前を通っていく。もう少しで龍太郎の前。
拘束具で自由になれない両手、衣服をぎゅっと握って手汗を吸い取らせる。
ごくり、と音がした。それは私が生唾を飲み込んだ音。
私は彼を助けられるのだろうか。脚が、手が小さく震えた。
カツ、と止められた足は龍太郎の前。
殺される……。
シン、とした沈黙の中。
そしてボスはそっと刀の鞘で龍太郎の隣の男の肩を二度叩いた。
「はひィ…っ」
「あなたですよ、あなた。皆に見える様に前へ出なさい」
ボスがそのまま定位置へと戻る。皆の視線を浴びている龍太郎の隣の男は下顎をガタガタとさせて重たい足取りでゆっくりと前へとやって来た。
怒る表情などはせず、変わらない爽やかな表情のままに残酷な事を言い放つ。それはまるで命の重さを知らない子供が昆虫で無邪気に遊ぶように…昆虫ではなく対象は人間に向けて。
「これより実験を行います。対象を情報を外へ流した裏切り者のエヘクトルへ……ふふ、処刑人という名を与えたのに処刑されるとは皮肉なものですねぇ。
これよりエヘクトルは被検体とし…そうですね、首はどれほど着いていれば生きていられるか。その点を確かめてみましょうか!今後の実験の為にもなりますからね」
ぞくりとする内容を言い放ち、鞘から濡れた様な金属音を鳴らして刀身を現す。
皆が巻き込まれたくなくただ整列をしたまま、ボスに"クリミア"と呼ばれた彼女がアンカーで逃げられないように、エヘクトルと呼ばれた男を呪術で拘束した。
シュンッ、ギチィ…!という音が静かな室内でかなりきつく縛られているのだと耳から知らせてくる。
硬いワイヤーの様な物が彼の銅と両手をきっちりと拘束している光景。指先まで腿にぴっちり着けられているから、印を結ぶ呪術を使うのならば手の打ちようがない。
「い、嫌だ…お、お許しを!二度と致しません!情報を与えた者は始末します!だからどうか、どうか…っ!」
「さあ、頑張って回復してみせて下さいよ~?」
ひざまずかされ、グ…プッ!と斜めに切断された彼の肩に急いで触れる。
大量の血、赤と白が見える。触れた私の手の甲に温かい血液が流れてきてた。
この治癒は誰かに言われたからという訳じゃない、実験だからって事でもなくて……。