第13章 磨りガラスの想い出
──私が縛りをして、私は少し自由になる。そしたら彼女は縛りが解ける。それはWin-Winな関係なのかもしれないな。
そんな考えで彼女の横顔を見ていると、ちら、とこちらを向いたので視線を逸らす。彼女は何を考えて私を世話してるんだろうな、なんて分かりもしない事を考えて、私はボスの横顔を見た。
全員が並ぶ中でボスは端から端まで構成員の顔を眺めてる……全体集会でもこれからするのか?いや、でも私にクリミアは実験と言っていたな…。
新たな客層の確保とか、そんな感じだろ。軽く考えて私は構成員達の方を眺める。
「全員揃っていますね、ええ宜しいことで。では皆さん早速ですが……、」
皆、緊張した顔つきをしてる。クレイジーなボスだから急に何を言い出すか分からないからだ。
ああ、いつも私に電気を浴びせたやつも泣きべそかいてるな?ちょっとだけざまあ、なんて考えながら指先をあいつの方に向けて僅かに中指を立てた。
最近は私が死なない程度の機械の電気ショックに切り替えられたけれども私はあの顎に無精ひげを生やし少し筋肉の着いた男が憎かった。ここに来る羽目になった原因でもあるし、痛い思いは大体があの男の呪術。
……いつかぶん殴ってやる。
ボスは小さく笑ってから少し溜めて、いつもよりも声を大きく言い放った。それはうきうきとして楽しそうな声色。
「どうやらこの中に裏切り者がいますねぇ……!」
一気に空気が凍った。
皆が皆目をきょろきょろとさせて視線が犯人探しをしてる。全員が怪しく見えるけれど……これは龍太郎危ないのではないのか、バレたのではないのかと私は龍太郎を見られない。
代わりに裏切り者が居ると言ったのに随分と楽しそうなボスを見た。
とても怒ってるようには見えない。
この男を知らない人が見たら笑って許しちゃう人なんだ、と思えるくらい。でも私はこの家にやって来て理解してる。
この男こそ諸悪の根源であるという事を。吐き気の催す邪悪、きっとこれから惨い事が行われる。数々の実験や罰を見てきたからこそそれは断定出来る。
誰も口を開けない静かな空間、ボスの革靴の音と刀の鞘を床につく音だけが静寂を支配する。